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LGBTのアイコン、フランク・オーシャンが最新作にこめたメッセージとは

ローリングストーン日本版 9/8(木) 19:00配信

フランク・オーシャンの最新作では、LGBTのファンが予想していたような"露骨な宣言"が見当たらない。しかしその曖昧性こそ、『ブロンド』をより一層刺激的な作品に仕立て上げているのだ。

フランク・オーシャン、待望のニュー・アルバム『Blonde』 がビルボード1位

フランク・オーシャンの待望のセカンド・アルバム『ブロンド』の中で、"ゲイ"という言葉は、たった一度しか使われていない。短い間奏曲『Good Guy』は、共通の友達を通じて知り合った男性とのブラインド・デートについて歌った一曲だ。その男性に連れて行かれたゲイ・バーで、二人の不適合性は明らかになる。オーシャンは、冗舌でその場のことしか考えていないデート相手の男性について、「君が今、僕を必要としていないことが分かる/君にとっては、単なる夜遊びに過ぎないってことも」と歌っている。オーシャンとその男性のストーリーのように、あっという間に終わりを迎えるこの曲は、60分のアルバムの中で唯一、男性パートナーや恋愛対象について歌われた曲である。しかし、それでもなお『ブロンド』は、先にリリースされたビジュアル・アルバム『エンドレス』と、『ブロンド』のリリースと同時に配布された雑誌『ボーイズ・ドント・クライ』と同様に、オーシャンのこれまでのプロジェクトの中で最も冒険的で同性愛色の濃い作品だといえる。

オーシャンの2012年のデビュー作『チャンネル・オレンジ』は、音楽界において重大な作品となった。R&B、ヒップホップ、ロック、ポップ、ファンクという多くのジャンルが見事に融合されたアルバムには、制御不能の物質主義と依存に対する生気に満ちた詩的なストーリーが溢れていた。しかし、アルバム最大の醍醐味となったのは、オーシャン自身の苦悩、特に彼の男性に対する報われない恋の物語と思われる曲だった。

『チャンネル・オレンジ』のリリースに先駆けて開催された視聴会に出席し、いくつかの曲で"彼"という言葉が使われていることに気付いたジャーナリストらの憶測が飛び交ったことを受け、オーシャンはリリース日の数日前に、19歳の頃に男性に恋したことをカミングアウトするオープンレターをTumblrに投稿した。「あれは僕の初恋で、僕の人生を変えた出来事だったんだ」。そこには、作曲を通して同性愛者であることに正面から取り組もうとした経緯が、詳細に綴られていた。「自由になれた気する」というオープンレターの後半に書かれた言葉からは、オーシャンの気持ちの解放を伺うことができる。そして最後は、「耳を研ぎ澄ませば・・・空が降ってくることを感じることだってできるんだ」と締めくくられていた。

これほどにまで勇敢にカミングアウトし評価されたアーティストは、R&Bとヒップホップの世界に存在しなかった。リリースされた『チャンネル・オレンジ』には、「僕の目からは涙は流れないはずだけど、彼、そう"君のこと"を考えてると涙が止まらないんだ」という歌詞のある『シンキン・バウト・ユー』や、「彼、そう君のことが頭によぎるんだ」という歌詞のある『フォレスト・ガンプ』など、深遠な意味を含む曲が収録されていた。響き渡るオルガンの音の中で懺悔を歌うパワフルな『バッド・レリジョン』では、オーシャンは神父にではなく、タクシーの運転手に心の内を吐露している。「この報われない愛/僕にとっては一人ぼっちのカルト、発砲スチロールのカップに入った酸性カリにしかすぎないんだ/僕は彼を振り向かせることができなかった」。こうタクシーの後部席で嘆くオーシャンの哀調を帯びたヴォーカルに、ストリングスの音色が加わる。これは、秘密と自らを騙すことの重荷に打ちのめされた男の、心の叫びなのだ。そしてこれは、一人の男性の最も深刻で強い訴えを歌った曲なのかもしれない。

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最終更新:9/8(木) 19:00

ローリングストーン日本版

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