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ヒットマンの苦悩と王座転落“人事”――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第175回

週刊SPA! 9/8(木) 9:10配信

 ビンス・マクマホンにとってチャンピオンベルトをめぐる長編ドラマは“人事”である。

 “ヒットマン”ブレット・ハートがやや唐突にボブ・バックランドに敗れ、WWE世界ヘビー級王座を失った(1994年11月23日=テキサス州サンアントニオ、フリーマン・コロシアム)。

 王座移動シーンの舞台は“サバイバー・シリーズ94”。タイトルマッチには“サブミッション・ルール”(セコンドのタオル投入によってのみ勝敗が決せられる)という特別ルールが設けられていた。

 この試合はブレット対バックランドのサブミッション=関節技の闘いというよりはブレットと実弟オーエン・ハートの“近親憎悪ドラマ”の応用編で、ブレットには父スチュー・ハートと母ヘレンさん、チャレンジャーのバックランドにはオーエンがそれぞれセコンドについた。

 結論からいえば、サブミッションの攻防=セコンドによるタオル投入という“設定”はアメリカの観客にはあまりウケなかった。ブレットはシャープシューター、バックランドはチキンウイング・クロスフェースという関節技をそれぞれフィニッシング・ムーブとして愛用していたが、試合の決着を関節技だけに限定したルールにはそこに至るまでの試合中のあらゆるプロセスが無意味になってしまうという欠陥があった。

 試合のクオリティーとオリジナリティをとことん大切にするブレットはパイルドライバー、ブルドッギング・ヘッドロック、レッグ・スウィープ(河津ドロップ)、ペンディラム式バックブリーカーといった大技のレパートリーをしっかりと披露したあとでシャープシューターにトライ。ここでオーエンが乱入し、レフェリーのブラインドをついてバックランドを救出した。

 いっぽう、バックランドがチキンウィング・クロスフェースでブレットの顔面を絞め上げると、ブレットはなんと“9分間”にわたりこれをディフェンス。最後はセコンドのヘレンさんが見るに見かねてタオルを投入し、35分11分、バックランドのTKO勝ちで試合が終わった。

 セコンドのタオル投入による試合終了―王座移動というワンシーンは、どうやら11年まえの王座移動ドラマのオマージュになっていた。そのときはバックランドがアイアン・シークのキャメルクラッチで半失神状態となり、バックランドのセコンドのアーノルド・スコーランがリング内にタオルを投げ込んだ(1983年12月26日=ニューヨーク州ニューヨーク、マディソン・スクウェア・ガーデン)。

 ブレットは“レッスルマニア10”(1994年3月20日=マディソン・スクウェア・ガーデン)でヨコヅナを下し、ようやく奪回に成功したWWE世界王座を8カ月で失った。またしても長期政権樹立はならなかった。

 ブレット対バックランドのタイトルマッチは“サバイバー・シリーズ”全5試合中、第3試合という、どちらかといえば前座のポジションにラインナップされていた。

 第1試合のバッド・ガイズ(レーザー・ラモン&123・キッド&デイビーボーイ・スミス&ファトゥー&シオネ)対チームスターズ(ショーン・マイケルズ&ディーゼル&オーエン&ジム・ナイドハート&ジェフ・ジャレット)の5対5イリミネーション・マッチでは、ヒール・サイドのディーゼル(ケビン・ナッシュ)とマイケルズが仲間割れ。ディーゼルの“突然”のベビーフェース転向がこの試合のクライマックスになっていた。

 メインイベントのアンダーテイカー対ヨコヅナの“キャスケット・マッチ”は、アンダーテイカーがヨコヅナを“棺おけKO”。タイトルマッチではないシングルマッチがPPVの大トリにラインナップされていた点にも、ビンスが考えるところのブレットとアンダーテイカーの“商品価値”のランクづけがそれとなくディスプレーされていた。

 ビンスは“古豪”バックランドをかつてのイワン・コロフ、サージャント・スローター、アイアン・シークのようなワンポイントのチャンピオンに起用し、次期チャンピオン誕生までの“のりしろ”に使う計画だった。“サバイバー・シリーズ”から3日後にはマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦が予定されていた。(つづく)

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。

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最終更新:9/8(木) 9:10

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