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“登場人物に導かれた”珠玉の物語。 『陸王』 (池井戸潤 著)

本の話WEB 9/9(金) 12:00配信

「半沢直樹」の原作シリーズや、『下町ロケット』など、ヒット作を生み出し続ける著者の最新作は、100年の歴史を持つ老舗足袋メーカーが、ランニングシューズに挑戦する物語だ。

「編集者に『BORN TO RUN』という本を薦められて読んで、その面白さを話していたときに、『五本指のスニーカーを履いて走ったら、地下足袋のような感覚でよかった』ということを聞いた。このとき、足袋メーカーがランニングシューズを作るって、面白い挑戦だよね、というアイデアが生まれたんです。ただ当初は、軽めの小説のつもりで、こんな大長編になるとは思ってもいなかった」

 宮沢が社長を務める“こはぜ屋”の業績はジリ貧。未来を切り拓くため、新規事業としてランニングシューズ「陸王」の開発に着手するが、資金難や新素材を使ったソールの開発、大手メーカーの妨害など、様々な壁に直面する。「全力でがんばってる奴が、すべての賭けに負けることはない。いつかは必ず勝つ」とロマンあふれる言葉を従業員に語る宮沢は、果たして、この事業を成功に導けるのか――。まさにページをめくる手が止まらない、読者を惹きこむストーリー展開だ。

「デビューして数年は、頭で考えた小説を書いていたような気がします。整っているけど作り物にすぎない出来栄えにずっと違和感をもっていて、このやり方には限界があると気が付いた。それからはプロットを立てず、キャラクターを描くうちにストーリーが出来ていく、という手法を取るようになりました。進むべき方向性はキャラクターの人格によって見えてくる。作家の視点で書いた小説はつまらないと思う」

“キャラクターにとことん向き合う”からこそ、池井戸作品の登場人物は魅力的なのだろう。

 こはぜ屋を担当する銀行員の坂本と大橋。就活に失敗し家業を手伝う宮沢の息子・大地。ソールの素材の特許を持つ飯山。故障から再起を期す陸上選手・茂木など、それぞれの人生が、色鮮やかな群像劇として浮かび上がる。

「ただし、このやり方にはデメリットがあって、執筆していても常に『この小説は終わるのかな』という不安が消えないんです。当初の500枚の予定を上回って、1000枚を超えたときは恐ろしくなりました(笑)。でも、“小説の終わりは、小説が決める”という信念を貫くしかない。登場人物たちが納得するまで書き続けないと、本物のストーリーなんて生まれないんです。ただ、小説というのは世に出した後は皆さんのもの。それぞれの読み方で楽しんでもらえたら嬉しいですね」

池井戸潤(いけいどじゅん)

1963年生まれ。98年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2011年『下町ロケット』で直木賞を受賞。『民王』『七つの会議』など著書多数。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:9/9(金) 12:00

本の話WEB

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