ここから本文です

香港に忠誠を強いる中国

Wedge 9/9(金) 12:10配信

 ウォールストリート・ジャーナル紙が8月4日付で「香港の忠誠の誓い:政府は批判者が選挙に出るのを阻止するために忠誠の誓いをでっちあげている」との社説を掲載し、中国の香港政策が香港独立運動を刺激しかねないと論じています。論旨、次の通り。

 香港では9月4日、立法会の選挙がある。候補者の中には北京に対決的な若い活動家がいることで、北京は警戒している。それで北京は候補者登録に当たり、香港は中国の「不可分の一部」と確認する忠誠の誓いに署名することを要求している。

 先週選挙管理委員会は、この誓いに署名をしなかった、あるいは学生運動家エドワード・梁の場合には署名が真摯ではないとの理由で、6名の候補者を失格処分にした。25歳の梁は、過去に独立を支持したが、今後、そうしないと約束した。しかし当局はフェイスブックでの彼の発言を元に、彼はその姿勢を「真摯に変更」していないとして、立候補を阻止した。

 著名な30人の弁護士が今週声明を出し、政府を批判した。香港法では、役人は候補者の発言の真摯さを問題にする権限はなく、候補者の資格を適正な手続きをとらず、基本法を真摯に守っていないとの理由ではく奪する政治的決定をする権限はないとしている。「立候補禁止は不法であり、政治的検閲と事前審査に当たる」としている。

 2014年の75日続いた民主化要求デモでも、独立の主張は取るに足らない泡沫的主張であった。しかし、政府のこれらの抗議への非妥協的な反応、批判者を過激な秩序破壊者と描写することは、若い世代の中で独立の主張を信頼性のあるものにしかねない。独立支持候補を失格させることは独立運動に勢いを与えうる。

 昨年の抗議後、行政長官梁振英は、年次演説で「香港のnationalism」をとりあげた香港大学の雑誌を批判した。その結果、雑誌はすぐ売り切れた。その後、570名の学生を調査したら、1年前から独立支持が倍増、28%にもなった。今夏、市全体の調査では17%が独立支持(ただし4%しか現実的と考えていない)であった。

 独立支持候補の弾圧が大陸での「分裂主義」弾圧のようなものになれば、独立支持者の数は増えるだろう。立候補資格をはく奪された候補者は、当局の決定は違法との裁判を起こそうとしている。

出典:‘Hong Kong’s Pledge of Allegiance’(Wall Street Journal, August 4, 2016)

 この社説は、9月の立法会選挙候補に中国が「忠誠の誓い」を求め、それをしない候補者の立候補資格をはく奪していることを報じるとともに、これは逆効果で、香港独立運動を強める方向になっている、と指摘しています。

 香港独立運動は、台湾独立運動と比較すると無いに等しいようにも思われますが、学生の28%、市民の17%が独立支持というのは、それなりの数字です。中国政府はこれを抑え込むために強硬策を講じていますが、この社説が言うように、逆効果になる可能性があります。中国共産党は権威主義政権であり、言論の自由があるような環境での政策展開は極めて苦手であるということでしょう。対台湾政策もうまくいっていません。

 中国国内での議論がどうなっているのか明確には分かりませんが、強硬策を主張しておけば安全ということで、強硬策にコンセンサスができやすい状況があるように思われます。香港は中国に返還され、中国の一部です。香港の問題は一国二制度の枠内で民主主義をどれくらい実践するかの問題であり、「中国の一部」ということに確認を求める行為は少し理解し難いものがあります。あまり強くもない香港独立運動を抑え込む相手と考えることは、その運動の存在の意義を認めることにつながりかねません。

 こういう中国のやり方を台湾は注目してみていると思われます。台湾世論は一国二制度であれ、何であれ、大陸と一緒になるのは御免蒙りたいとの感情をこの件で一層強めることは確実であるように思われます。「1992年コンセンサス」について、中国が好む方向で台湾側が歩み寄ることなど、考えられません。

 中国の対外政策は硬直化してきている傾向が看取されます。この香港の事例は小さいですが、その傾向を反映しているように思われます。核心的利益の範囲が台湾、チベットから南シナ海、尖閣を含む東シナ海などに拡張されてきており、かつ他国にその尊重を一方的に求めるのは、拡張主義と言うしかありません。

岡崎研究所

最終更新:9/9(金) 12:10

Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2016年12月号
11月19日発売

定価500円(税込)

■特集 クールジャパンの不都合な真実
・設立から5年経過も成果なし 官製映画会社の〝惨状〟
・チグハグな投資戦略 業界が求める支援の〝最適化〟
・これでいいのかクールジャパン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。