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“あげるべき作品に受賞” 必読の「谷崎賞」作たち

Book Bang 9/9(金) 8:10配信

 谷崎潤一郎賞が大好きだ。理由は単純。あげるべき作品に授賞してるから。中央公論社創業八十周年を記念して、それまであった中央公論新人賞をリニューアルし、ベテラン作家対象の文学賞として創設。『細雪』をはじめ多くの名作で知られる作家の名を冠したこの賞の歴史を振り返れば、戦後日本文学史の肝(キモ)的な傑作が押さえられるほどなのだ。

 記念すべき第一回受賞作は小島信夫の『抱擁家族』。若い人に、いつも「谷崎賞の全受賞作を読みなよ」とアドバイスしているのだけれど、以降の受賞作もまさに綺羅星のごとしだ。

 藤枝静男『田紳有楽』(十二回)、田中小実昌『ポロポロ』(十五回)、古井由吉『槿』(十九回)、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(二十一回)、筒井康隆『夢の木坂分岐点』(二十三回)、川上弘美『センセイの鞄』(三十七回)、多和田葉子『容疑者の夜行列車』(三十九回)、町田康『告白』(四十一回)、桐野夏生『東京島』(四十四回)など、ちょっとピックアップしただけでも、これだけの素晴らしい小説が並んでいる。

 谷崎賞が見事なのは、右に挙げたタイトルで気づいていただけるように、受賞作の間口が広い点。実験的な試みをしている作品のことも、きちんと同時代的に評価できているのだ。最初に『抱擁家族』に授賞したのが今になっても効いてるんじゃないかなあ。というのも、この作品、妻に不貞を働かれた主人公の狂気へと至るジタバタを、笑いに裏打ちされた特異な語り口で描いて、かなり奇天烈な印象を残す傑作なのだ。

 唯一の傷は、存命の作家の中でもっとも重要と、トヨザキが思っている金井美恵子に授賞していないこと。でも、第五十二回受賞結果も素晴らしいから許しちゃう。東京から群馬の実家に戻った青年を主人公に、都会/地方、外/内といった境界を多面的にあぶり出す絲山秋子『薄情』。アパートの一室の歴代住人の生活を描くことで、一九六六年から二○一六年へと至る時代の変化の相までも浮かび上がらせる長嶋有『三の隣は五号室』。最新受賞作二作を端緒に、谷崎賞作品読破に挑戦してみて下さい。

[評者]―― 豊崎由美(書評家)

※「週刊新潮」2016年9月8日号掲載

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最終更新:9/9(金) 8:10

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