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妻が夫に殺意を抱く理由とは 『ラヴィアンローズ』 (村山由佳 著)

本の話WEB 9/10(土) 12:00配信

「『人に殺意を抱いたことがありますか』という編集者の方の質問から、この物語が始まりました」と語る村山さんの最新作は、妻が夫を殺して庭に埋めるという衝撃的なサスペンスだ。

 薔薇の咲く家で妻思いの夫の道彦と暮らし、カリスマ主婦としてブログで人気を集める咲季子。だがその内情は、「自分以外の男性と食事をすることは、セックスをするのと同じこと」と嘯く夫のルールに従うことで、成り立つ〈見かけの幸せ〉だった。

「『ダブル・ファンタジー』では今で言う〈モラルハラスメント〉、『放蕩記』では〈毒親〉がテーマでしたが、当時は、どちらも一般的な言葉ではありませんでした。でも今はその言葉の存在で、自分も同じだと気づく人も増えたのでは? 私自身、作品を書くことで気づいたところも多かったです」

 夫の束縛で極力男性との接触を控えていた咲季子は、会うまでは女性と思い込んでいた年下の男性デザイナー・堂本裕美と恋に落ち、夫から酷い〈モラハラ〉を受けてきたと気づく。2人は、夫の監視をかいくぐり密会を重ねるが、その日々にも突如終焉が訪れる。すべてを壊そうとする夫に、咲季子は、自分にとって本当に大切なものを守るため、ある決断をする……。

「自分がよって立つ物を否定されたり、自尊心を奪われることの異常さに気づいたとき、私は本当に耐えがたかった。その気持ちが殺意へ結びつく過程が、今回の登場人物の造形につながっています。私の個人的な体験についての感情は、もうフラットなのですが、それを改めて物語にしようと文字にするのは、とても辛い作業でした」

 咲季子は、犠牲と引き替えに本当の自由を獲得する。だが物語は、男たちの意外な弱さが露呈されることで、また違う側面を見せ始める。

「咲季子に託したのは、〈1人で立てる強さ〉。もし弱い女性であれば、ただの自己憐憫になる状況でも、咲季子は最後まで自分の決断を肯定する。そこに自分の憧れも込めて書きました」

 今回、読者の反応として、「ここが一番面白い」という点が、それぞれ違うのが、とても印象的だったという。

「人によってポイントが違うと聞いて、以前、渡辺淳一さんが『特殊を描いて、普遍に至るのが文学だ』とおっしゃったのを思い出して、みんなが共感するような、うすぼんやりとしたものより、あえて特殊な状況を描き切る方が、むしろ強い普遍性を獲得できるのかもと、最近思うようになりました」

 エディット・ピアフの名曲から採られたタイトルに込めた意味が、読み終えた時に心に刺さる著者の新境地だ。

村山由佳(むらやまゆか)

1964年東京都生まれ。2003年『星々の舟』で直木賞、09年、『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞を受賞。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:9/10(土) 12:00

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