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海堂尊が描く若き日のゲバラ 『ポーラースター ゲバラ覚醒』

Book Bang 9/10(土) 8:10配信

 青い炎が燃えさかる。

 医療ミステリーの書き手として知られる海堂尊が新境地を開く作品を発表した。『ポーラースター ゲバラ覚醒』は、フィデル・カストロと共にキューバ革命を指導したチェ・ゲバラの若き日々を描く青春小説だ。アルゼンチンの旧名家に生まれたゲバラは、ブエノス大学に進んで医学を修めた。医師でもある海堂は、その点に親近感を覚えたのではないか。

 物語の日付はゲバラ二十三歳の一九五一年十月から始まる。当時のアルゼンチンは、政治の動乱期に入っていた。その中で労働者層の人心掌握に成功したフアン・ドミンゴ=ペロンが頭角を現し、大統領として長期政権を築くことになる。ゲバラはそのペロンに対し批判的な立場を採っていた。大学課程がほぼ終了し、翌年三月に行われる国家試験を待つばかりとなったある日、ゲバラは年長の友人ピョートルと共に、南米大陸縦断の旅に出かける。ラテンアメリカ諸国の多くではファシスト政権が誕生しており、その現実を自分の目で確かめるという意図があった。

 あるときは吟遊詩人となることを夢見たり、別の機会には考古学者の道にも心惹かれたりと若きゲバラは移り気だ。一本気な性格のために警察官に睨まれ、厄介な立場に陥ることもある。若さゆえの危なっかしい道中が、朗らかに語られているのである。ゲバラの著書『モーターサイクル・ダイアリーズ』(角川文庫)の裏話のような要素もあり、ボルヘスなどの実在の人物が多数登場する歴史小説でもある。

 南米の旅は陽気なだけではなく、ファシズムによって不幸な境遇に追いやられた人々との出会いがある。残酷な現実を見聞するうちにゲバラの中に堆積していく感情に強く心を動かされた。本書は海堂によるゲバラ伝の第一弾であり、物語は全四巻で完結する予定である。青い炎は、さらに激しく燃え広がり、読む者の心を焼くことだろう。熱い小説だ。

[評者]――杉江松恋(書評家)

※「週刊新潮」2016年9月8日号掲載

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最終更新:9/10(土) 8:10

Book Bang

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