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EXILE ATSUSHIはなぜマーヴィン・ゲイと美空ひばりを同時に歌う? 宗像明将の東京ドーム公演レポ

リアルサウンド 9/10(土) 16:00配信

 2016年8月31日、EXILE ATSUSHIが活動拠点を海外に移すことが発表された。期間は2018年まで。その突然の発表を受けてまず私が思い浮かべたのは、EXILE ATSUSHI初の単独ドームツアー「EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 “IT'S SHOW TIME!!“」の東京公演初日である2016年8月27日の東京ドームに、ボーイズIIメンが登場したときのことだった。海外からのビッグ・ゲストの登場に、東京ドームはまさに割れんばかりの大歓声に包まれた。

 そして、ボーイズIIメンのボーカルの技巧は圧倒的だった。彼らの肉声にはオートチューンなど不要だと痛感した。そして、ボーイズIIメンの2006年の「Muzak feat. ATSUSHI(EXILE)」や2011年の「End Of The Day ~Boyz II Men feat. EXILE ATSUSHI~」で、EXILE ATSUSHIがこのレベルのアーティストと共演しておいたのは正解だったと感じたほどだ。

 そんなステージを見ていたからこそ、期間限定ではあるが、EXILE ATSUSHIが活動拠点を海外に移すことに驚きはしなかった。2016年8月27日の東京ドーム公演は、ボーイズIIメンとの共演以外でも、ボーカリストとしてのEXILE ATSUSHIの姿をこれでもかというほど見せつけるものだったのだ。

 開演前に会場に流れていたのは、フランク・シナトラの「Theme From New York, New York」。そして、開演とともに登場したのは、約40人ものミュージシャンで構成された大編成バンドだった。彼らによるオープニング演奏はジャズそのもの。そして、やはりジャジーな「Beautiful Gorgeous Love」で、EXILE ATSUSHIはステージ上の光る階段をおりながら登場した。ステージ・セットは照明も華やかなゴージャスなものだ。「All of Me」でもジャジーな演奏は続き、ギター、オルガン、サックス、トロンボーンによるソロも展開された。EXILE ATSUSHIは「All of Me」の最後を伸びの良い声で歌いあげてみせた。

 そして、マーヴィン・ゲイの1971年の名曲「What's Going On」へ。EXILE ATSUSHIはキーボードを弾きながら歌い、小粋なプレイすら聴かせた。この段階でボーカリスト、ミュージシャン、エンターテイナーとしてのEXILE ATSUSHIに感嘆してしまったが、ライブはまだ3曲目である。

 正直、冒頭の流れには「これほど趣味性を押しだしてくるのか」と驚愕したが、そこはやはりEXILE ATSUSHIである。6曲目からは日本の名曲のカバーが続いた。中島みゆきの「糸」、サザンオールスターズの「慕情」、尾崎豊の「I LOVE YOU」と続いたので、さきほどまでのマーヴィン・ゲイから急展開だと感じたほどだ。とはいえ、日本的な叙情性に包まれた「糸」では、EXILE ATSUSHIによる男性性が薄いボーカルが新鮮だった。「I LOVE YOU」では、せつなさの中に色気をも感じさせた。

 ジャズ・スタンダードの「Smoke Gets In Your Eyes」では、羽毛のように繊細で軽やかな歌唱が印象的だった。こうしたジャズ路線は、それこそブルーノート東京でやってもいいようなことを東京ドームでやっており、そこにEXILE ATSUSHIの凄みを感じた。

 EXILE勇退の噂を笑って否定するMCは、まさか海外への活動拠点移転が待っているとは感じさせなかった。そして、斉藤和義の「歩いて帰ろう」へ。ピアノはニューオリンズ風味だった。

 そこから美空ひばりのカバー2曲へ。歌われたのは「川の流れのように」と「愛燦燦」だが、名曲「愛燦燦」は歌い手の力量が露骨に出る楽曲でもある。その「愛燦燦」で、EXILE ATSUSHIは人生の喜怒哀楽の機微を歌いあげてみせたのだ。

 EXILE ATSUSHIによるグランドピアノの弾き語りでは、「Lost Moments ~置き忘れた時間~」、そしてオフコースの「言葉にできない」が歌われた。

 EXILE ATSUSHIの15年を振り返る映像を挟んでから、ニュー・プロジェクトであるRED DIAMOND DOGSが登場。ATSUSHIがボーカル、PHEKOOがキーボード、FUYUがドラム、DURANがギターを担当する4人編成のバンドだ。ロック・バンドかと思ったが、実際にはブラック・ロックと言いたくなるぐらいR&B色の濃い演奏だった。

 そして、再び約40人のバンド編成に。ファンキーな「LA LA~孤独な夜に~」では、EXILE ATSUSHIがゴンドラカーの天井に立ち、ボールを投げながらアリーナを周遊しはじめた。ファンクラブで当選したファンはEXILE ATSUSHIと両手でハイタッチできる特典があったようで、彼にハグされるファンが出るたびに、東京ドームでは歓声が渦巻いた。

 EXILE ATSUSHIがステージに戻ってきてから「昭和の大スター」として招き入れたスペシャル・ゲストが、まさかの加山雄三。EXILE ATSUSHIが加山雄三を「ジャパニーズ・フランク・シナトラ」と紹介したので、開演前にフランク・シナトラを流していたのはこの伏線か、とやっと理解した。驚きも冷めやらぬ間に、初めて生で「君といつまでも」を聴くことに。なお、加山雄三は補聴器と間違えられるのでイヤモニをつけなかったが、現在はEXILE ATSUSHIと同じイヤモニを注文してつけているというエピソードも紹介されていた。加山雄三はフランク・シナトラの「MY WAY」を、それこそ呼吸でもするかのようにナチュラルに歌いあげた。

 本編ラストは「Choo Choo TRAIN」。アリーナに銀テープが舞いおりた。

 そして、ここで時間軸は冒頭に戻る。アンコールにボーイズIIメンが登場したのだ。加山雄三が出てきた後に、さらにボーイズIIメンである。EXILE ATSUSHIとボーイズIIメンは「On Bended Knee」「End Of The Road」「One love」と3曲も共演。そして、最後の最後にEXILE ATSUSHIひとりで「願い」を歌うと、ステージ上の階段をのぼって去っていった。

 ジャズ、ソウル、J-POP、演歌、そしてR&B……。ジャンルを一切問わずに、とにかく歌いたい楽曲を歌う、潔いほどのライブだった。EXILE ATSUSHIの個人的な趣味性が出ても、大衆性は必ず担保する。そのバランス感覚こそが、約3時間半ものライブを成立させていた。

 2016年8月31日にEXILE公式サイトに掲載された「EXILE、EXILE ATSUSHIを応援くださる皆さんへ」には、EXILE ATSUSHIによるこんな一文がある。

 「EXILEの音楽性の原点は、本場アメリカなどのR&Bや、ダンスミュージックを、日本の皆さんが、より聴きやすいであろう形に変化させ、そこにさらに、日本人の独特の、“魂” や“心” というものを加えた、それは自分達なりの、新しいジャンルへの挑戦だったとも思っています」

 この一文は、実はそのままEXILE ATSUSHIの東京ドーム公演を表現するものだ。愚直なほどに、彼は上記の一文そのままの音楽を追求していたし、それが選曲の振れ幅の大きさにもつながっていた。日本の戦後歌謡史を洋楽の咀嚼の歴史だとしたら、EXILE ATSUSHIの東京ドーム公演は彼個人の歌謡史であったのだ。マーヴィン・ゲイと美空ひばりを東京ドームで同時に歌えるアーティストはEXILE ATSUSHIぐらいだ。そして、それを5万人の観客に説得力を持って届けることができるのもEXILE ATSUSHIぐらいである。

 ボーイズIIメンとの共演を見れば、EXILE ATSUSHIが海外に活動拠点を移すこともごく自然に納得できる。彼が目指している次元は、あの世界水準なのだ。近年のEXILE関連作品が、J-POPのど真ん中でEDMやベース・ミュージックまで取りあげていることとも無関係ではないだろう。海外での活動を経て、EXILE ATSUSHIがさらなる音楽のミクスチャーをJ-POPシーンに届けてくれることを楽しみにしたい。素直にそう思えるのは、東京ドームでの「EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 “IT'S SHOW TIME!!“」を見たからなのだ。

宗像明将

最終更新:9/10(土) 16:00

リアルサウンド