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Kindle Unlimitedは読書と作品の何を変えるのか?

ダ・ヴィンチニュース 9/10(土) 18:00配信

 8月3日にスタートした読み放題サービスKindle Unlimited。月額税込990円と、雑誌中心のdマガジンや、楽天マガジンに比べると強気の価格設定だが、本やマンガも利用でき、利用開始から1カ月間は無料というということで、試している人も多いはずだ。13万タイトル以上というアマゾンならではのボリューム感も魅力だ。

 ところが、サービス開始から1カ月が経過し、このKindle Unlimitedから作品を引き上げる出版社も出てきた。徳間書店のCOMICリュウは公式ブログでその理由を「アマゾンから条件面の変更が伝えられたため」と公表(現在は削除)など、背景には様々な事情がありそうだ。

 そんな中「Kindle Unlimitedは独立作家の福音か? それとも悪夢の始まりか?」と銘打ったトークイベントが8月28日に開催された。主催は筆者も理事を務めるNPO法人日本独立作家同盟。その名の通り、セルフパブリッシングで直接電子書籍を販売するような作家(インディーズ作家)を支援しようという団体だ。

 いま、「カクヨム」や「小説家になろう」といった小説投稿サイトが人気を博している。TVアニメも好評放送中の「Re:ゼロから始める異世界生活」のような大型タイトルも、はじまりは投稿サイト。そんな新たな創作の場で活躍する作家にとっても、Kindle Unlimitedは無視できない存在になっており、その姿を探ろうというのがこのイベントの目的だった。

 登壇したのは、KDP(Kindle Direct Publishing)で2013年には1000万円以上の収益を上げたマンガ家の鈴木みそ氏。そして、独立作家同盟の理事長鷹野凌氏(フリーライター)、米国の電子書籍事情に詳しい大原ケイ氏(文芸エージェント)、そして出版関係のオンラインニュースコラム媒体を発行する仲俣暁生氏(文芸評論家・フリー編集者)らだ。

 ここでまず指摘されたのが、KDPを利用する作家の多くが選択する「KDPセレクト」という契約の存在。これは、アマゾンでのみ作品を販売することを条件に、ロイヤリティーを70%という高い料率で受け取れるというもの。この契約のなかに、Kindle Unlimitedの対象作品に自動的となることが記されているのだ。鈴木みそ氏も、自らが販売する全ての作品をこの条件で展開しているという。

「最初、どれだけ読まれたかというレポートが反映されるまでに時間が掛かることを意識しておらず、全然読まれてないと勘違いして、『Kindle Unlimitedだめじゃん、セレクトやめる!』とTweetしたところ、鈴木みそがKindleやめるってよって、話題になってしまいました」(みそ氏)

 ところが、その後レポートが時間差で反映されると、実際には1日あたり20万ページ以上読まれていることが判明。読み放題から作品がなくなってしまう前に、と思った人たちの駆け込み需要かもしれなく、だとしたら申し訳なかったが――と苦笑いしながら、いずれにせよKindle Unlimitedでの売上は非常に魅力的なものになっていると鈴木みそ氏は語る。

 一方で、冒頭で述べたように、Kindle Unlimitedでの作品展開を見直す出版社も出てきている。ここには、日米の本を巡る環境の違いが大きいと語るのが大原ケイ氏だ。アメリカで読み放題として提供されている書籍は約135万点、そのうちコミックはわずか9千点程度と大原氏は指摘する。電子書籍の売り上げの80%以上をマンガが占める日本とは様子が大きく異なる。

 鷹野氏は、スライドを使いながら私たち読者からはやや複雑な、Kindle Unlimitedにおける売上の分配方法について、説明を行っている。特殊な日本の市場環境と、この分配の仕組みが混乱を招きながらも、みそ氏のような作家にとってはチャンスにもなっているのだ。

 Kindle Unlimitedでの売上は、大きく2つの算出方法によって分配が行われている。1つは読まれたページ数に応じて分配される方法。KENEPC(Kindle Edition Normalized Page Count)という指標が用いられており、読まれたページ数にアマゾンが定めるページ単価が掛け合わせて算定されており、こちらはKDPで直接電子書籍を販売するケースに適用される。

 そして、一般的な出版社がKindle Unlimitedに作品を提供する際には、タイトル全体の一定の割合(10%とされている)が読まれれば、利用があったものとしてカウントし、分配が行われる契約になっている。そしてさらに、一部の出版社には読み放題サービス開始時の参加に対して、一定期間条件面において優遇される契約が結ばれていたようだ。(こちらは守秘義務があるため、出版社の口は堅い。前述のCOMICリュウの当該ブログ記事も現在は削除されている)

 マンガの比率が高い日本の市場環境では、読み放題サービスで巻数の多いマンガ作品も、あっという間に読まれたことが容易に想像がつく。その勢い、つまり分配金の支払いのペースが予想を超えて多くなってしまったことで、一部出版社との優遇処置を前倒しで終了に至った、というのが真相のようだ。優遇されないのであれば、ということで作品を引き上げたり、提供方法を1巻のみにあらためるなど、見直しを図る出版社が今後も続くと予想される。

 一方で、ランキングにも大きな変動があった。これまでの単品購入と、読み放題での利用が1つのランキングとして集計されているので、Kindle Unlimited対象本である方がランキングに表示されやすい状況になっているのだ。逆に言えば、「Kindle Unlimitedに参加しないとランキングに入ることは難しい」と仲俣氏が指摘するほどだ。

 Kindleのランキングを巡っては、日本でのサービス開始当時は、みそ氏を始めとするセルフパブリッシングにチャレンジする作家の作品が、ランキングの上位を占めた時期があった。しかし、その後大手出版社がかなりの巻数までを無料としたり、セール価格を仕掛けるなど、メジャータイトルがこの市場も席巻するようになっていた。今回のKindle Unlimitedはそんな状況に一石を投じるものになっているのだ。みそ氏は「自分の本に限っては、単品販売による売上は下がっているけれど、読まれているページ(引いてはこれが分配金につながる)は着実に増えているという手応えを感じる」と話す。

 つまり、Kindle Unlimitedはセルフパブリッシングにも取り組む作家や、これからメジャーを狙う新人作家にとって、膠着状態を打破するきっかけとなっている。とはいえ、アマゾンというグローバルプラットフォーム内での動きは、ルールというさじ加減一つで大きく様子が変わってくるのも事実。鷹野氏は「作家にとってはルールを熟知すること、そして適正なルールでプラットフォームが適切に運営されるよう常に声を上げていくことが大切」としてイベントを締めくくっている。

取材・文=まつもとあつし

最終更新:9/10(土) 18:00

ダ・ヴィンチニュース

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