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大倉孝二が語る"俺の哲学":「僕らは、笑わせたいのではなく、笑われたいんです。」

ローリングストーン日本版 9/10(土) 18:00配信

連載 煙たい男たち|Case29 大倉孝二

謙遜でも何でもなく、僕は自分自身の才能に関しては悲観的です

志茂田景樹という生き方:「一貫して僕は僕。普通じゃないと言うのが偏見」

今までの経験上、一線で活躍する役者と面と向かうと、力強い一種異様なオーラと威圧感と繊細さが混ざったような、独特の空気を皆放っているものだ。

煙草はいつから? そんな質問からインタヴューを始めると「なんとなくみんなが吸い出した頃から、気づいたら吸ってましたねー(笑)」と、その佇まいも含め、力強さとは無縁な様子の答えが返ってきた。
男の名前は大倉孝二。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)率いるナイロン100℃の役者で、小演劇ファンでその存在を知らない人はいない。さらに現在は映画・TVと多方面で活躍していて、お茶の間でもよく知られた存在だ。

筆者が大倉を知ったのは10年以上前の舞台で、そこから何度か彼が出演する舞台を観た。ありていに言うと、決して技巧派の役者ではなく、圧倒的な存在感の役者でもない。だが、彼が舞台に出てくると空気が変わる。空気が張り詰めるというより、空気が緩むのだ。舞台の上の大倉は長身なのにどこか頼りなさげで、その彼にしか出せない空気感がクセになる。では、本人は自分を役者としてどう評価しているのだろうか?「これは謙遜でも何でもなく、僕は自分自身の才能に関しては悲観的です」とさらりと答える。その喋りもどこかひょうきんで場の空気が緩む。それからこう続けた。「だからなるべく自分の映像とかを観ないようにしています。観ると、コイツ下手くそだなぁって恥ずかしくなって演技できなくなっちゃうんで」と、なんだか頼りない。役者というのは巧みに何者かになる生業のはずなのに、舞台で観た大倉と、今目の前にいる大倉は限りなく同じ空気感で、つくづく不思議な役者だと思った。

大倉が役者の道を選んだのは、積極的な理由があったわけではなかった。舞台芸術学院という専門学校を卒業しているが、その学校に入った理由は「何がしたいのかわからなかったんですが、ただ面白いことをやるヤツになりたいと思って、とりあえず、そういう連中が集まるところに行こうと。別に演技に興味があったわけではなかったんです」。そんな彼の運命が変わったのは、ふとしたきっかけだった。学校は池袋の東京芸術劇場の裏にあり、その劇場でナイロン100℃が公演していた。学校では面白いと評判になっていたが、大倉はその頃芝居に興味がなかった。ただ、ロックが好きな大倉はKERAの存在を知っていたので、なんとなく劇場に行ってみた。「生まれて初めて、お金出して観た演劇がナイロン100℃なんですよ。出てくるのはTVで観たことない人ばかりなのに、こんなに面白い人達が世の中にいるんだってことにビックリして。それに、内容も含め何もかも自分がイメージしてた演劇と違って、なんかひとつ崩された感じがありましたね」と当時を振り返る。その後、学校の仲間がナイロン100℃のオーディションを受けると盛り上がっていたので、つられてじゃあ俺も受ける! とオーディションを受けてみた結果、学校の仲間で合格したのは大倉を含む4人、しかも今も劇団にいるのは大倉だけだという。劇団員になれたことをさぞかし喜んだのかと思いきや、答えは違った。「むしろ、いつ辞めようかとずっと思っていましたね。怒られてばかりだし、貧乏だし、モテないし。いいことなんてなんにもなくて」。貧乏は深刻で、1日の食事は88円のコッペパンとコーラ1本。 "劇団史上最も怒られた男"というのが劇団内での異名で、大倉が怒鳴られているのを見ない日はないほどだったそうだ。「当時CD屋でバイトをしてたんですけど、そこで知り合ったバンドの手伝いをしていたりして、こっちの方がいいなぁと思いながら惰性で21年、役者やってます」と大倉は笑った。

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最終更新:9/10(土) 18:00

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北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。