ここから本文です

これまでの「キャリアを捨てる」勇気――東大卒、元マッキンゼーのお笑い芸人・石井てる美

週刊SPA! 9/10(土) 9:10配信

【週刊SPA!連載】

★週刊チキーーダ! 飯田泰之・荻上チキのヤバい研究報告書

東京大学に現役で入学。在学中はアジア開発銀行でインターンシップを経験し、“記念受験”したマッキンゼーに入社……と、絵に描いたようなエリート街道を進みながら、お笑い芸人の道へ。異色の経歴を持つ石井てる美さんに話を聞いた。

飯田泰之(以下、飯田):今の仕事に不満なんだけど、人間関係を含めて、これまで築いてきたものが捨てられずストレスフルな現状に甘んじる……ほとんどの勤め人に共通する行動方式です。そこで今回はこれまでの経歴や積み重ねを「捨てる」方法について伺えればと。

石井てる美(以下、石井):人間脳の脳って、よくも悪くも現状維持をしようとするらしいですね。昨日と同じ今日が続くほうが人間の本能として楽とかで。

飯田:東大を出てマッキンゼーに勤めて……、そこまで投下した努力を捨てるのって勇気がいったと思うんですね。登りきった山から別の山へ移るのって、また底へ下りなくてはいけないわけですから。辞めるとなったとき、「もったいない」って言われたでしょう。

石井:言われましたね。「大丈夫?」はもっと言われました(笑)。私もゆるい山だったら下りられなかったような気がします。

飯田:マッキンゼーはやはり、緩やかな山ではなかった……ということですか。

石井:「辞めるなんてもったいない」「いればいいじゃん」で居続けられる状態ではなかったんです。これまでの人生、「頑張ればなんとかなる」と思って、実際、なんとかなってきたんですが、マッキンゼーでは、どんなに頑張っても“できない”んですよ。最後はクライアント先常駐で外国人上司と2人、日本語でもわからない内容を英語でやりとりして。食事もほとんど喉を通らず、「乗ってるタクシーが事故に遭えばいい」とまで考えるようになっていましたから。

飯田:“学歴エリート”って、「頑張ればなんとかなる」状態で生きてきた人がほとんどです。僕もそうですし。

石井:私は決して頭がキレるわけじゃないんですよね。ただ、マジメに授業に出て、リポートを出して……と、目の前のことを愚直にやってきたタイプなので。

飯田:だからこそ、「頑張ってもなんとかなる」を超えた状態になると、ひどく混乱してしまうのはわかります。

石井:おまけに、そんな状態になってもまだ、「失敗してはいけない」という思いにもとらわれてしまっていた。失敗なんて誰でもするし、大切なのは、失敗しても頭を切り替えてすぐに前に進むこと。それなのに、変なプライドから「完璧であらねば」という思いに縛られて。辞めるという発想にならなかったのも、「マッキンゼーにも3年はいないと格好がつかない」という思いがあったんだと思います。

飯田:褒められるとかうらやましがられるステータスを、とりあえず目指すというのはわかるなぁ。その一方で、自分の限界を知り、それを超えすぎたことをしても楽しくないっていうことに気づくのは重要かもしれませんね。

石井:「これはもう無理!」という状態になったら、思いきって切り捨てる勇気、決断は大事なのかと。例えば、家の中に1000万円の札束があって、火事になったときに、「なんで1000万取りに戻らなかったの? もったいない!」とは言わないですよね。決断って、一つの道を選ぶことでもありますが、同時に別の何かをあきらめることでもありますよね。「死んだほうが楽」っていうところまでいって、ようやく、私が人生で本当に失いたくないものは家族と友達で、キャリアなんてそんなたいしたことじゃないと気づけたんです。

飯田:もともとお笑い芸人になりたかったんですか?

石井:人生がもう一個あればやりたかった! で、死にそうな思いをしてようやく、人生はもう一個ないことに気づかされた、って感じですね。先ほど言ったみたいに、マッキンゼーは挫折して続けられなかったのが実情ですが、同時に、レールの敷かれた人生にワクワクするものを感じてなかったというのも確実にあって。マッキンゼーに就職したのも経営コンサルになりたかったというよりも、やっぱり、マッキンゼーだったからなんですね。本当にやりたかったことに挑戦すれば、ワクワク感は得られるんじゃないかって思ったんです。

飯田:その決断と挑戦で、失ったものはありますか?

石井:そりゃあ、お金です!(笑) この前、大手商社に勤める大学の同級生の給料聞いてふっとびそうになりました。「そんなにもらえるんだ!」って(笑)。そりゃあ、わざわざリスク取らないよなって。

飯田:アラサー東大出身あるあるですね(笑)。しかし、仕事において、何を達成感とするかは人それぞれ。大きなプロジェクトやデカい金額を扱うことに興奮できる人もいれば、自分でコントロールしているグリップ感が楽しい人もいる。例えば僕の業界では40歳を過ぎると大学行政や学会の幹部、あとは政府のお仕事が増えてきたりするんですが……僕はそういう仕事よりも反応が目に見えるメディア仕事や講義のほうが楽しかったりもする。ライブ感がある喜びというか。

石井:自分のやっていることの意味や価値が、ダイレクトに感じられるのは嬉しいですよね。その仕事を続けていくのって、「好きかどうか」「得意かどうか」「将来的な目標を抱けるか」の3つの条件があると思うんです。これに一つでも「YES」と思えたら、続けていけるんだと思います。

飯田:メディアに出るときに、「東大卒」ってついてまわるじゃないですか。めんどくさくないですか。

石井:その肩書でテレビのお話をいただくこともあり、ありがたいんですけど、「東大出たけど~」とか「東大っぽいことを言ってほしい」とかは飽きてきましたね。でも例えば、香川照之さんのことを東大卒だって誰も言わない。結局、そうなっていない自分がいけないんだなって思います。

飯田:確かにそれは言えますね。

石井:お笑いでも、その肩書を超えないといけないなって思うんです。先日、『有田ジェネレーション』に出させていただいて、初めて一切東大卒といった経歴に触れずに、ネタだけで笑ってもらえて。それは、本当に嬉しかったですね。

飯田:じゃあ今、一番楽しいのはネタを考えることですか? それともライブ?

石井:ネタを考えるときはしんどいし、舞台では緊張するんですけど、それがウケたときが一番嬉しいですね。よく言われることですが、芸能界の中でもお笑いは実力で測られる世界。事務所は一切関係ないとは言いませんが、面白ければ売れていくのは確か。イロジカルなものが働いていないので、挑戦のしがいがあるんですよね。

【石井てる美】

’83年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。2008年、マッキンゼーに入社。お笑い芸人を志し、翌年夏に退社。ワタナベエンターテインメントの養成所を経て、お笑い芸人に。現在、ライブなどで活動中。持ちネタは、TOEIC満点の英語力を活かした「ヒラリー・クリントンの物まねコント」「言いづらい言葉を英語っぽく言う」など

【飯田泰之】

’75年生まれ。エコノミスト、明治大学准教授。「今年の夏休みも目標未達で終了。この雰囲気だと目標通りの夏を過ごしたら死ぬんじゃないかと思えてくる」

日刊SPA!

最終更新:9/10(土) 9:10

週刊SPA!

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週刊SPA!

扶桑社

2016年12月6日号
11月29日発売

¥390

・[死ぬまで年収300万円]の病巣
・眼を劇的によくする方法
・[(裏)流行語大賞]2016
・【インタビュー】ピコ太郎と古坂大魔王