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名優マーク・ライランスが語る“英国流”の紳士の姿

GQ JAPAN 9/12(月) 20:25配信

スティーブン・スピルバーグ監督作『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015)で、米ソ冷戦下で翻弄されるソ連の老スパイを演じ、本年度のアカデミー賞助演男優賞に輝いたイギリスの名優、マーク・ライランス。そんな彼がスピルバーグ監督の熱望により2作連続で起用され、主演する最新作『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』が9月17日(土)に公開される。

【知的でチャーミングなマーク・ライランスさんの全画像はこちらから】

本作は子どもたちに夢を届ける“やさしい巨人”のBFGとひとりぼっちの少女ソフィーが困難を乗り越え、世界を変えていく冒険ファンタジーだ。原作は、映画『チャーリーとチョコレート工場』(05)の原作者として知られ、今年で生誕100周年を迎えたイギリス児童文学界の巨匠ロアルド・ダール。さらに、製作、脚本、撮影、編集、音楽などでは、長年にわたりスピルバーグ監督を支え続け、数々のオスカー受賞歴を誇る“ドリーム・チーム”が結集した。

本作の日本公開を前に来日したマーク・ライランスに、スピルバーグ監督の演出法や日本文化からインスパイアされたこと、そして理想の紳士像を訊いた。

──本年度のアカデミー賞助演男優賞の受賞、おめでとうございます。この受賞やスピルバーグ監督との出会いで、あなたの人生はどう変わりましたか?

より多くの人が僕のことを知ってくれたという変化は感じますね。

スティーブンも僕も物語のために生きているところがあって、古き良き物語を愛しています。例えば、黒澤明監督作品やシェイクスピア、歌舞伎。スティーブンとの出会いは、まるで兄に巡り会ったような感じなのです。一緒に仕事をしなかったとしても、彼とはとてもいい友達になっていたと思います。

スティーブンの作品であればどんな小さな役でも出演していきたいと考えていますし、今は4作連続(本作が2作目)で出演することが決まっています。

──BFGというキャラクターをどのように受け止めましたか?

彼は孤独な人なのです。クラフトを開発し、ひとりで生きていくための物を作り、ベストを尽くそうとしてる。幼い子どもが死んでしまった過去のひどい過ちを、決して忘れないようにしているのですね。

僕はBFGのユーモアのセンスが好きですし、奇妙な話し方も含めた彼のすべてが気に入っています。彼が変わっていく様子も、ソフィーのいうことを聞いて考え込むところもね。

──ソフィー役には新人のルビー・バーンヒルが抜擢されました。『E.T.』(1982)や『A.I.』(01)などで子役を見出し、育てることに定評のあるスピルバーグ監督が見初めた10歳の少女の演技、いかがでしたか?

並外れて想像力豊かなルビーは、天性の女優ですね。前世でも女優だったに違いないと思わせるほど、役者の仕事を知り尽くしていました。若手俳優にはいつも刺激を受けますが、今回も彼女から多くの学びを得ました。

技術的にとても複雑なスティーブンからの指示に応え、何であろうといとも簡単にやってのける。その奇跡的なまでの才能には、驚かされましたよ。

──モーション・キャプチャーを駆使しての演技は初めてだったと思います。苦労されたことは?

日本の方にこのようなことを申し上げるのは恐縮なのですが、モーション・キャプチャーは「能」なんです。日本の伝統芸能である能の舞台には4つの柱があり、その空間の中に想像上の視覚を創りあげて能狂言が繰り広げられます。小道具やセットはほとんどなく、観客が周りに座っているだけ。すべてが演じる者の動きと観客のイマジネーションで構築されるのです。

モーション・キャプチャーでの演技は、能と同じでした。スタジオで足場を組んで箱を作り、そこに何百もの遠赤外線カメラが設置され、すべての方向から空間を撮影します。能の衣裳に比べたら劣りますが、モーション・キャプチャーでは専用のスーツを着るんですよ。

4つの柱に囲われた舞台と同じように、コンピューターの中にだけある空間で演技し、そのときの動きや表情などはすべてコンピューターに取り込まれます。演技の自由度がとても高く、お芝居のリハーサルの最後の数日を思い出しました──小道具やセットが組まれる前の、身ひとつで演じているリハーサルをね。

──スピルバーグ監督の演出で印象的だったことは?

感心するのは、スティーブンがいかに役者を信用しているか、ということです。彼は各スキルに熟練したスタッフに囲まれているんですよね。多くのスタッフが彼と一緒にキャリアを重ねてきたのですから、彼と仕事をする時は同じような技量を当然期待されていると感じました。

だから、細かい話を現場でしないのです。スタジオに行って、遊びつつ仕事を一緒に始めるという感じです。

──完成作をスクリーンでご覧になった感想は?

普段の自分を鏡で見るよりも良かったよ。なぜなら、(大きい)耳やメイクのせいで僕自身とかけ離れていましたから。

初めて映画を観た時、製作がとてもうまくいったことを知って驚いたのです。この映画は巨人の僕とルビーでモノのスケールが異なります。BFGのためのセットと、ルビーのためのセットは、違う場所にあったんです。映画では僕たちが会話しているように見えるはずです。でも、そういうふうに感じられるために、すべてがごく自然に見えるためには、実はとても大変な作業があったのです。

──BFGは夢を作って子どもたちに吹き込んでいました。ライランスさんご自身が叶えたい夢や挑戦したいことは?

今までは演劇で昔からある物語を演じたり演出したりしてきました。最後に数えた時は、シェイクスピア作品や彼と同時代の劇作家の作品に50本以上は携わっていたかな。

今の夢は新しい芝居や物語を作ることです。それも演劇やテレビ、映画の世界で。昔の名人たちの手による素晴らしい作品にインスピレーションを受けて、新しい芝居を作っていきたいですね。一緒に仕事をしている妻も同じことを考えているんですよ。

──先ほど黒澤監督や能のお話が出ました。昔から日本の文化に興味があったのですか?

16歳の時に初めて黒澤映画と出会って以降、たぶん全作品を観ました。高校生の時には、オリジナルの芝居で三島由紀夫さんのような博士の役を演じたこともあります。ですから、若い頃から日本の文化が大好きだ、と言えるでしょうね。日本のファッションも大好きで、今日のパンツは山本寛斎さんデザインの服です。

実はプライベートで日本を訪問したこともあるのです。仕事のための来日を含めると、今回で3回目ですね。東京に来る前に京都に行ったのですが、宿泊した旅館の男性が京都を案内してくれて、特別な神社でお参りしたり、普通は入れないような場所に連れて行ってくれたり、旅館に舞妓さんが来て踊ってくれたりもしました。『ブリッジ・オブ・スパイ』での受賞のおかげもあって、皆さんがあたたかく迎えてくれました。

──本作でBFGは紳士的な巨人でしたが、あなたにとっての理想の紳士像は?

英国では昔、中東へ十字軍が何度も派遣されました。当時の英国の騎士はイスラムのスーフィー教にとても感銘を受け、ガーター騎士団というものを作りました。侍が持っているような名誉を大切にする規律があり、ガーターベルトのガーターはそれが由来だと言われています。

白と赤の薔薇がミックスされた柄で知られています。それが象徴するのは、真の騎士とは自分の女性的な面や柔らかい面も理解すべきである、ということなんです。現代のユング心理学などでは、男性のするべきことのひとつは、父性と同じく自分の中の母性も知ること。男性と女性の部分のバランスを自分の中で見出すために、白と赤の薔薇がひとつになれるように……と。

ですから「精神と肉体」「脳と心」のように、逆のものがひとつになろうとすることが重要なんです。上にあるものと下にあるものが組み合わさることでひとつになる、そうすることで生まれる存在──それが紳士ではないでしょうか。

文・國方麻紀 写真・中原希実子

最終更新:9/12(月) 20:25

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