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ソニー平井社長が語る、「社員の熱量を吸い上げる」メカニズムの作り方

Forbes JAPAN 9/12(月) 8:00配信

イノベーションという文脈で最も多く語られる企業のひとつが「ソニー」である。平井一夫社長就任以降、新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」をはじめ、数々のイノベーションのための施策を行ってきた背景にはどのような哲学があったのだろうか。



イノベーションの実現に一番必要なことは社員のパッションだ」

ソニー・平井一夫社長が「イノベーション100委員会」の会合で発した言葉はとても印象的だった。平井社長自身、ガジェット好きで、「『自由闊達』にして愉快なる理想工場の建設」という設立趣意書に共感してソニーに入社したという経歴だからこそ出た言葉であろう。

今回、平井社長に聞いたのは、イノベーション100委員会が掲げる「イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針」のうち2つに関することだ。ひとつは「社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する」。

新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」は、現・新規事業創出部統括部長の小田島伸至氏をはじめとするボトムアップの活動と平井社長のトップダウンの決断により、2014年にスタート。既存事業にとらわれない新分野のビジネスアイデアを事業化するなど、成果を出している。SAPは社員のパッションを解き放つことができたのか。

もうひとつは「効率性と創造性、2階建ての経営を実現する」。平井社長が社長就任した12年、厳しい業績のなか、構造改革を早急に進める必然性があった。その一方で、平井社長はソニーらしいイノベーティブな製品やサービスが出ていないことに危機感をもち、社員のパッションを解き放つための仕掛けを思考した。

効率性の向上と創造性の強化を同時並行で進めるため、平井社長は何にこだわり、経営の舵取りを行ってきたのか。平井社長の思いと行動を掘り下げていく。


ーソニーの経営者は、特にイノベーションという軸での周囲の期待値やプレッシャーが高い。一方、社長就任以降は構造改革時期。構造改革をしながらイノベーションを行うことについて、どのように考えていましたか。

社長就任した2012年、特に看板であるエレクトロニクス事業に関する危機感が強くありました。売り上げ、利益の低迷もさることながら、イノベーティブな製品、強い製品が出てきていないという強い危機感です。

とはいえ、それまで社長を務めていたソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)とは、社員数も、売り上げも、市場領域も、製造拠点の数も、スケールが違う。イノベーティブな製品・サービスを生み出しながら、社員のモチベーションを上げて、ソニー全体を変えていくー。

社長就任は大きなチャレンジだと思いましたが、私自身は創業者の盛田(昭夫)さん、井深(大)さんのビジョンが好きで、その思いに共感して入社したので、機会をもらえるのなら貢献したいという気持ちでした。

就任以降は、厳しい構造改革をし、商品力を上げ、イノベーションを生み出すことを思考し、さらにそれをどう外部とコミュニケーションしていくかなど、バランスを取りながら進めていました。

その過程で重要視したのは「現場」。就任2日目に、震災で被害を受けた宮城県多賀城市の工場を視察するなど、「まず現場」と様々な場所に赴きました。組織は上にいくほど、情報がセレクティブになり、少なくなる。バイアスがかかりながら細くなるということが往々にしてあります。だから、自分で取りにいかないといけないと思っていました。

たとえば、SAPと同じく社長直轄で「Life SpaceUX」というコンセプトの商品を生み出しているTS事業準備室から製品化した4K超短焦点プロジェクターも、そうした現場視察から「この新技術とアイデア面白いから製品化しよう」と盛り上がったことがきっかけでした。

当時、「どのように種をまけばいいか」を考え続け、数多く種まきをしていった成果が、ソニーが成長フェーズになってきた現在、いいタイミングで芽が出てきたという形ですね。
--{打ち上げ花火では終わらせない}--
ーとはいえ、構造改革と新しいものを生み出すというのは、頭の使い方がまったく違います。どのようにバランスを取っていたのですか。

まず、構造改革は、やらなければいけないこと。一方で、新規事業をはじめ、イノベーションに関することは、好きなので。新製品やアイデアに「いいね」「どうなの」と話をするのは好きですし、実は楽しいひと時でした。軽く聞こえてしまいがちですが、構造改革中だからこそ、新製品やビジネスのアイデアといった明日のソニーに貢献するものが出てきたら、こんなに楽しいことはない、と。

ー「SAP」はなぜ検討されたのですか。そしてなぜ、社長直轄のプロジェクトとしてはじめたのでしょうか。

社長就任以降、若手とランチョンミーティングを続けています。毎回若手7~8人に集まってもらい、お弁当を食べながら、雑談風に「いま何を考えているのか」を話してもらうと、共通するひとつのテーマがありました。

「いまは忙しく仕事に追われ、さらに、本業に関係ないアイデアをもっていても、上司に言うと『いまは会社の存続が最優先。まずは与えられた仕事をしろ』と言われ、新しいアイデアをどうしていいかわからない」というもの。このまま放っておくと、いいアイデアが日の目を見ずに埋もれてしまい、どうしても具現化したい社員は辞めてしまうかもしれない。

だから、組織として、システマティックに、アイデアをしっかりと評価し、製品化までつなげる仕組みをつくらなければいけないー。社員と話をするたび、そんな思いをマグマが沸き上がるよう感じていました。悩んでいるタイミングで、現新規事業創出部統括部長の小田島(伸至)らから「こういうイノベーションを生み出すための仕組みがある」と提案され、何度もミーティングを重ねました。

なぜなら、こうした社長直轄の新プロジェクトをよく考え抜かないではじめると、ますます悪い結果になる。社長の肝煎りではじめても、オペレーションが機能せず、サポート体制も整備されていないと、半年後「最近どうしたんだろうね」「社長があれはもうやめるって言ってたよ」という残念な結果になりがちです。当時のソニーで、一度でもそんなことをしたら、ますますネガティブスパイラルに入ってしまうので、絶対に避けなければなりませんでした。

最終的に私がSAPの立ち上げを行うと決断をしたのは、SAPが仕組みとして持続可能だと思ったから。小田島らと対話を続け、外部も含めて様々なアドバイスをいただきながら、最終的に思想、ルール、メカニズム、スタッフィングが整い、打ち上げ花火ではなく「充分に継続できる」と思ったのです。

私は一回納得すると、逆に絶対にやめませんから。だからこそ、この「持続」にこだわりました。社員の熱い思いを大事にしなければならないなか、持続できない仕組みに「アイデアをもってきて」というのは絶対にあってはならないと思っていました。
--{製品軸のイノベーションは必須}--
ー「SAP」の現在の評価についてお聞かせください。2年経過した現在、社員のパッションを活かすことできたのでしょうか。今後何をしていくのでしょうか。

昔からソニーには「これをやってみたい」「世界を変えていく」という思いを持っている人はいたと思います。だから、組織として、その社員の熱量をうまく吸い上げて事業化につなげるというメカニズムをつくること。うまく活躍できるようにすることが重要だと思っています。

これまでの評価ですが、SAPや、同じく社長直轄のTS事業準備室により「平井が新製品や新ビジネスにコミットする」というメッセージが社内に浸透してきました。

SAPで様々な製品が出てきて、メディアなどで話題にもなり、「何かやってるな」くらいに思われていたプロジェクトが、誰もが知るものになり、リスペクトもされはじめてきました。また、質も担保できる製品が出てきて、評価もされている。これまでの「フェーズ1」はすごくいいと思います。

これからは、収益化をどうするのか、という次のフェーズです。単発売りではなく、いまある製品群をいかにリカーリングビジネスに発展させ、ビジネスとして安定した収益をあげながら、大きな花を開かせていくかということが課題です。パッションをもった人たちのアイデアを吸い上げる土壌はできたので、次のステージに向かうため、もう一度、様々なアイデアを出して、駒を先に進めていくことを考えてもらいたいですね。

今後、SAPやTS事業準備室をはじめとしたインキュベーションや新規ビジネスから、ソニーの将来を担う、ソニーを変える新しい製品や事業が生まれる可能性はあると思います。ただ、誤解されるといけないのですが、SAPやTS事業準備室をやっているから、ソニーの5年後が大丈夫だということではありません。

経営者として「5年後、10年後の会社の進むべき方向性や成長戦略」についてはトップマネジメントとして当然考えています。企業の成長戦略のなかにSAPは含まれていますが、当然すべてではありません。ただ会社がどの方向に進むにせよ、製品軸のイノベーションは絶対に必要になりますし、否定できないと思います。

だからこそ、イノベーションのための施策を打つことが、大きな成長戦略の一部となりえるのです。今後については、これまでの延長線上にない非連続な方向性と連続な方向性の2軸で、経営陣をはじめ、社内メンバーや外部の方々と議論しています。

ーイノベーション100委員会での気付きについてお教えください。また、イノベーションに取り組む経営者や社内起業家へのメッセージをお願いします。

イノベーションや新規事業は、社長が旗ふりをして「あとはよろしく」ではうまくいきません。人任せにせずに自分で日々、進捗を確認して、社長が本気で取り組んでいることをメッセージとして発信することが成功の秘訣ーという点が会合に出席した経営者の共通認識でした。そのほかにも、会社ごとに文化が違うので、実行する形やメッセージはそれぞれ違いますが、根底に流れている基本的なルールはあるとあらためて確信しました。

SAPをスタートしてわかったことは、たとえば、大企業だからこそのスピード感。アイデアを出すことや、プロトタイプ(試作品)をつくることは誰でもできる。ただ製品として、量産設計、量産化、マーケティング、ディストリビューション、営業、カスタマーサービスまでを考慮すると、ソニーは全てを持っている。

これまでスピードの面ではデメリットとして語られることもあった大企業の持つ資産は、小回りの利く使い方を取り入れ、全体の仕組みにフィードバックすればメリットに変わり、製品化までのスピードを速められる。

だからこそ、大企業の経営者がイノベーションについて真剣に考える必要性があると思っています。私は今後、イノベーションをうまくメカニズムとしてつくっていくことができる会社こそが伸びていく企業だと思っていますから。

Kazuo Hirai 平井一夫◎ソニー代表執行役 社長 兼 CEO。1984年CBS・ソニー(現・ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。97年ソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)(SCEI) 執行役員、2006年SCEI代表取締役社長 兼 グループCOOを経て、12年4月より現職。

Forbes JAPAN 編集部

最終更新:9/12(月) 8:00

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