ここから本文です

ディーゼルの“プロレス開眼”――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第177回

週刊SPA! 9/12(月) 9:10配信

 長編ドラマの新チャプターがものすごいスピードで動きはじめていた。45歳の大ベテラン、ボブ・バックランドが“サバイバー・シリーズ94”(1994年11月23日=テキサス州サンアントニオ)で“ヒットマン”ブレット・ハートを下しWWE世界ヘビー級王座を奪取してから3日後、ニューヨーク・ニューヨークではマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦がおこなわれた(同11月26日)。

 “サバイバー・シリーズ”はサンクスギビング・デー(感謝祭)の木曜夜にPPV放映され、ガーデン定期戦は日曜夜に開催のハウスショー。WWEはこの週の土曜朝オンエア分のTVショー“WWEマニア”(USAネットワーク)の番組内で前WWE世界王者ブレットの負傷欠場とそれに伴うガーデン定期戦のカード変更をアナウンスした。

 新しいメインイベントは、バックランド対ディーゼル(ケビン・ナッシュ)のWWE世界戦。第1コンテンダーに抜てきされたディーゼルは“サバイバー・シリーズ”での5対5イリミネーション・マッチで“相棒”ショーン・マイケルズと仲間割れを演じ、ベビーフェース転向を果たしたばかりだった。

 バックランドはインタビュー・シーンで「わたしはブレット・ハートとのタイトルマッチのためにトレーニングを積んできた。ディーゼルと試合をする準備はしていない」とコメント。番組内ではタイトルマッチの試合結果が同日午後9時30分から“900ナンバー”の有料電話サービス(90年代のダイヤルQ2サービスのアメリカ版)で速報配信されることも併せて発表された。中級レベル以上のマニア層はこの時点で王座移動ドラマを“予知”した。

 タイトルマッチにはノーDQ(反則裁定なし)、ノー・カウントアウト(場外カウントアウトによる裁定なし)、ノー・サブミッション(ギブアップによる裁定なし)という変則ルールが導入された。バックランドの必殺技はチキンウィング・クロスフェースだから、ノー・サブミッションというルールは明らかに不公平な条件であったことはいうまでもない。

 全8試合中、第5試合にラインナップされたバックランド対ディーゼルのタイトルマッチは、わずか8秒という記録的な試合タイムでディーゼルがお得意のジャックナイフ・パワーボムからバックランドをフォール。試合終了のゴングが鳴ったとたん、ハウスショーとしては異例のパイロワーク(花火)が響き渡り、閃光のシャワーがリング上を包み込んだ。“スター誕生”の瞬間だった。

 新チャンピオンとなったディーゼルは第8試合(アンダーテイカー対IRS)のまえにもういちどリングに登場し、マイクを手に「このマディソン・スクウェア・ガーデンのリングでチャンピオンになれたのはキミたちのおかげ」とコメント。いかにもベビーフェースらしいスピーチで観客を完全に味方につけた。

 ディーゼルはキャリア4年、36歳の“遅れてきたルーキー”だった。テネシー大時代はバスケットボールで活躍し、NBAプレーヤーをめざしたが、大学卒業後はヨーロッパ・リーグ(ドイツ)に在籍。ジョージア州アトランタのナイトクラブでバウンサーをしていたところをジム・ハードWCW副社長(当時)にスカウトされ、1990年にプロレス入りした。

 デビュー当時はペインティング系のマスター・ブラスター・スティール、“魔法の国からやって来た”オズ、“ラスベガスの用心棒”ヴィニー・ベガスといったキャラクターを演じたがパッとしなかった。1993年6月、WWEと契約し、S・マイケルズのボディーガートという役どころで“月曜ロウ”の登場人物になった。

 ディーゼルに改名したときの身長は6フィート9インチ(約206センチ)だったが、いつのまにか“公称”7フィート(約213センチ)の巨人にアップグレードしていた。ビンス・マクマホンは、ディーゼルをハルク・ホーガンに代わる90年代のオルタナティブととらえた。

 ディーゼルはマイケルズ、レーザー・ラモン(スコット・ホール)、123・キッド(ショーン・ウォルトマン)らとつねに行動をともにすることでその“プロレス頭脳”をいっきに開花させたのだった。(つづく)

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。

日刊SPA!

最終更新:9/12(月) 9:10

週刊SPA!

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週刊SPA!

扶桑社

2016年12月13日号
12月06日発売

¥390

・[転売で儲ける](秘)メソッド
・[ゲス不倫ブーム]知られざる波紋
・[痛すぎる発言]ランキング
・冬のボーナス[有名企業50社]対決

なぜ今? 首相主導の働き方改革