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全世界から自費でリオに 裏方フリーク1万人が集結

NIKKEI STYLE 9/13(火) 7:00配信

 熱狂の舞台が五輪からパラリンピックに移ったリオデジャネイロ。準備不足から開催が危ぶまれた大会も表向きには大過なく運営されているようにも見える。水面下の大会運営は実際どうなっていたのだろうか。ロンドン、ソチと五輪ボランティアを経験し、今回のリオ大会にも駆けつけた英国で経営コンサルタントを営む西川千春氏(56)の目に映ったリオの実情と、大会ボランティアの魅力について3回にわたり報告してもらう。 長かったようであっという間に過ぎ去った3週間。リオでの五輪ボランティア活動を終えて、ロンドンの我が家に戻ってすでに2週間が過ぎようとしている。出会った仲間たち、リオの街並みとどこからとなく流れてくるサンバのリズム。様々な出来事や思いが頭をめぐり、なかなか現実世界に戻ることができない。これが一度足を踏み入れたら後戻りできない五輪の不思議な魔力だ。
 この五輪中毒といってもいい症状に取りつかれてすでに4年。すべては自分が住む街、ロンドンで2012年に開催された五輪ボランティアに参加し、人生最高の2週間を過ごしたことから始まる。ロンドン大会後の虚脱感から抜け出るために、ソチ大会のボランティアに参加。そして今回のリオにも全く躊躇(ちゅうちょ)することなく手を挙げてしまった。リオでのボランティア活動のリポートを通じてスポーツを支える楽しみをぜひ知ってもらいたいと思う。
 オンラインで申し込みをしたのは開催の2年前だった。どの大会でもスケジュールはほぼ同じ。そしていつも同じシステムなので、記入事項も大体同じである。ボランティアの職種は会場サービス、競技、技術、メディアサポート、運送、医療、要人のアテンド・サポートなど大きな区別があり、細かく分けると800以上にもなる。応募時に3つの希望職種を選択できる。
 今回もロンドン、ソチと同じく通訳を希望して、無事合格通知をもらったのが本番の1年前ぐらいだ。ボランティアの応募者は24万人でそのうち5万人が採用となった。ちなみに通訳チームは試合後の選手インタビューをオリンピック放送サービス、ニュースサービス、放送局、新聞・通信社のリポーターや記者に通訳するのが主な仕事だ。今回は1000名程度が通訳チームに採用された。ロンドンの700名よりも増員されている。ちなみにプロの通訳も70人程度参加していて、公式メダル記者会見の同時・逐語通訳を担当する。ボランティア通訳とは厳密に区別され、指示系統も全く別だ。
 リオ大会開幕もあと1か月となった7月。新聞でもボランティアに関する記事がいくつか取り上げられた。その中で東京大会でのボランティア要件と東京外国語大学の学生がまとまってボランティアとしてリオ大会に参加するニュースに対して、ネットで炎上する騒ぎとなった。つまり「タダで働かせて、この待遇はありえない」「ブラックすぎる」「こんな条件付けて誰も応募するわけないじゃん」といった内容だ。非常に残念に感じたが、まだまだボランティアを単なる「安い労働力」としてしか見ていない人たちが多くいるというのが現実なのだろう。
 ボランティアは英語の「Voluntarily=自発的に」から来ている。つまり公共性のある大きなミッションに賛同して、「貴重な経験を積みたい」「人の役に立ちたい」といった自分の目標と合致した時に自発的に参加することになる。リオのボランティアには北京、ロンドン、ソチ大会を経験した外国人たちが1万人規模で参加していた。世界最大のスポーツイベントに当事者として参加することで選手と感動を分かち合い、どれだけやりがいを感じているのかがわかるだろう。
 遠いブラジルまでの渡航費や現地の滞在費を自己負担してまでも駆けつけるのだ。条件は初めから提示されているので、有償・無償であることは論点ではないことを理解してほしい。それだけにモチベ―ションは高く、仕事として参加しているスタッフやコントラクターとは全く違ったオーラを発している。自然とあふれてくる笑顔が今や「大会の顔」といわれるゆえんだ。
 いよいよ開催が近づき、日焼け止め、虫よけスプレーやビーチサンダル、Tシャツ、短パンをパッキングして準備完了。競技・関連施設の建設遅れや、ジカ熱、治安問題などが騒がれていたが、大会への期待と興奮が完全に上回っていた。選手村も水漏れだの、トイレが詰まるなど話題十分だ。ソチ大会の時も、水漏れ、床の陥没、雨漏りと、問題が出るわ出るわ。きょうは何が起こるかと楽しみになってしまった。マンホールのふたが足りなくてそのままにしていたり、どうしても危険な箇所は、倉庫で使う木のパレットを置いてあったりした。床のタイルは突貫工事だったので、よく見ると張り方がガタガタ。当然みんなが歩いているうちに端が欠けて、毎日張り替えている始末だった。
 最後はどうにかなると思い、リオに向けて出発。乗り換えのサンパウロで入国審査が長蛇の列。国内便の手続きも同様だったので予定のリオ行きに乗れず。同じ境遇でサンパウロ空港内を一緒に全力疾走した五輪取材班の英国放送協会(BBC)の撮影クルーたちと一緒に航空会社の悪口を言いながら次の便を待つことになった。聞いてみるとロンドン大会の時も私が働いていた同じエクセル会場で撮影していたそうだ。ボランティアもプロも2年ごとに同じ顔触れがそろうのが、これまた五輪の不思議なところだ。
 初めてのブラジル。冬だというのに夏のロンドンより暑いではないか。さすがに絵になる街だというのが第一印象。海と丘の何とも言えないコントラストを醸し出している。いろいろな問題を抜きにすれば、五輪の舞台としては完璧だと思った。翌日は通訳に関するトレーニングだった。過去に経験しているので大体内容はわかる。前回と比較して質問したり、経験者としてコメントをしたりして少しは貢献できたようだ。
 楽しみながら、全員が参加できるようにうまく考えられたプログラムだ。面白いことに、この日のセッションでは講師の2人を除けば、参加者40人中ブラジル人は日系のマルシオさんただ一人。必然的にすべて英語だ。ちなみに通訳は20数カ国語を英語に訳すのが仕事。公式報道機関はどこで行われる大会であっても英語で運営されるからだ。実際通訳チームはほとんど外国人だったのも後から分かった。
 開会式の当日にユニホームをピックアップしに行った。身分証明書を発行してもらい、サイズを確認しながらユニホームをもらう。今回はブラジルらしい色使いで、すばらしいデザインだ。あすからのユニホーム姿を想像しながらテレビで開会式を見た。さあ待ちに待ったオリンピックだ。ドキドキしながらベッドに入ると、時差も手伝ってすぐに寝てしまった。どうやら私は心底おめでたい人間らしい。
 にしかわ・ちはる 1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。米アリゾナ州立大で国際経営学修士(MBA)。90年、日本精工の駐在員としてロンドンへ。その後英国に留まり、2005年に経営コンサルタントとして独立。日本スポーツボランティアネットワークのプロジェクトに特別講師としてかかわるほか、目白大学外国語学部英米語学科講師。

最終更新:9/13(火) 7:00

NIKKEI STYLE

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