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青年は真実に辿り着けるのか―― 『あしたの君へ』 (柚月裕子 著)

本の話WEB 9/13(火) 12:00配信

 悪徳刑事とヤクザ間の抗争を描いた、前作『孤狼の血』が大きな話題となり、日本推理作家協会賞長編賞を受賞。社会派の旗手として注目を集める著者の最新作は、離婚や相続問題を扱う家事事件と少年犯罪を扱う家庭裁判所が舞台となっている。

「これまでの作品の多くは、たとえば殺人事件や万引き、痴漢などの社会的な事件を扱ってきました。今回もこうした事件がなぜ起こったかを探っていく点は変わりません。ただ、離婚やハラスメント、育児に関する悩みは誰にでも起こりうること。より身近な事件であり、ひょっとしたら読者の中にも同じような問題を抱えていらっしゃる方もいるかもしれません」

 しかし、案件自体は一般的なものだったとしても、優等生に見えた少年が起こしたストーカー事件(「抱かれる者」)、一見、理想的な夫との離婚を望む妻(「責める者」)、離婚に際しての親権争い(「迷う者」)など、「家庭の問題は閉鎖的で、夫婦仲や親子仲は外からでは理解しづらい上、法律だけではすべてを解決できない」のが家庭裁判所の難しいところだ。

 主人公の望月大地は、福森家庭裁判所で修習中の家裁調査官補で、周囲は親しみを込めて、彼らを「カンポちゃん」と呼ぶ。だが、家裁を訪れる相談者たちは、まだ半人前の大地に対して、なかなか心を開こうとしない。

「担当の編集者から、最近の若い男の子は職場でもあまり元気がないというのを聞いて(笑)、そんなどこか弱々しい青年が、自分の仕事と誠実に向き合うことによって、静かに半歩でも、前へと進めるような作品になればと考えました」

 優秀な同期や先輩の家裁調査官の仕事ぶりを目の当たりにするにつけ、自分にこの仕事は向いていないのではないかと思い悩み、挫けそうになるが、「そんな大地を書くことで、案外、私も一緒に成長させてもらったのかもしれませんね」と柚月さんは振り返る。

「事件が解決したといっても、それは裁判上の区切りであって、登場人物たちのその後の人生は続いていきます。特に最終話で親権を争う両親に対して、10歳の子供がどう向き合うのかを書くにあたっては、作者としてもなかなか答えが出せずに、連載時と単行本では違う形になりました。結局、それでもはっきりした解答になっていないかもしれませんが、それは読者の方に委ねたい。満面の笑顔とまではいかなくても、この少年の微笑みを想像してもらえれば――小説の中の一筋の光が、誰かのあしたへ進む力に少しでもなってくれたらと願っています」

柚月裕子(ゆづきゆうこ)

1968年生まれ。2008年『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞、13年『検事の本懐』で大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で推理作家協会賞を受賞。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:9/13(火) 12:00

本の話WEB