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NIKKEI STYLE 9/13(火) 11:19配信

ナラティブ・コーチングとは

 ナラティブ・コーチングというのは、対話を通してナラティブの力を最大限に活かしつつ、気づきを促し、変革をもらたらす技法である。

 ナラティブとは「語り」のことだが、語りの主な機能として、つぎの4つをあげることができる。

1 カタルシス機能

 胸の奥に溜め込んだ思いを語ることにより、それと結びついた情動を発散させる。腹立たしいことや悔しい出来事にまつわる思いをぶちまけてスッキリしたり、長年胸の中につかえていた思いを吐き出すことでスッキリするなど。

2 自己明確化機能

 解釈以前の感情や衝動に対して、言葉によって形を与えることで、自分自身が経験していることを明確にしていく。映画や書物で感動した時など、なぜ感動したのかを言語化しないことが多いが、その感動をだれかに伝えるために改めて言語化しようとすることで、自分がどこの部分にどうして感動したのかがはっきりしてくる。そのように語ることでモヤモヤした思いがはっきりしてくる。

3 統合化機能

 個々の経験の間に因果の連鎖をつくるなどして経験を体系化し、一貫した意味の流れのもとに自己の諸経験を統合的に理解することを促す。私たちは出来事の羅列の世界を生きているわけではない。あの出来事がその後のこの出来事につながった、あの出来事の影響でこんな行動をとるようになったというように、出来事同士を因果関係で結ぶことで、自分の生い立ちや行動に説明をつけようとする。それが一般に自己理解と言われるものといってよい。

4 動機づけ機能

 先立つ経験と後に続くと予想される出来事に照らして、意味があると思われる行動へと動機づける。私たちは気まぐれな行動をとるわけではなく、過去経験の解釈をデータとして用いて未来を思い描き、より望ましい未来につながるような行動を選択する。そのための過去の解釈や未来への期待を語りが促すことになる。

 この中の1のカタルシス機能はだれもが知っているはずだ。語ることでスッキリする。それに対して、2~4の機能は見逃されている。この3つの機能に共通する視点は、語ることによって経験が整理され、自己理解が進むということである。

 私たちは客観的な事実の世界を生きているのではなく、主観的な意味づけの世界を生きている。それが私の提唱してきた自己物語の心理学の基本的視点だ。それをコーチングに応用すべく提唱しているのがナラティブ・コーチングである。

 つまり、ナラティブ・コーチングとは、対話の中で日々の経験をめぐる語りを引き出し、本人の欲求や価値観についての気づきを促し、納得のいく生き方や働き方の再構築をサポートする手法である。

 そこでは、客観的な事実の世界ではなく、本人自身が生きている意味の世界に関心を向ける。客観的にどんな構図であるかが重要なのではない。本人がどうとらえているかが重要なのだ。

 客観的現実が行動を決めさせるのではなく、客観的現実に対する本人の意味づけの仕方が行動を規定しているのである。ゆえに、意味づけの仕方が変われば、行動が変わる。仕事への取り組み姿勢も変わる。

 私たちの思考はナラティブ形式をとる。私たちの感情はナラティブの中で生じる。私たちの行動はナラティブの中で決定され、ナラティブを通して修正される。このように、私たちの行動は思考や感情によって方向づけられる。ゆえに、ナラティブの中で気づきが生まれれば、思考が変わる。それによって感情が変わる。その結果として行動が変わる。ナラティブを通して思考や感情を揺さぶることで、行動の変革をもたらすことができる。それがナラティブ・コーチングの前提となる。

 ナラティブ・コーチングは、行動主義心理学に基づく従来のコーチングを否定するのではなく、それを補うものとして位置づけることができる。

 本人がより納得する行動目標を設定し、望ましい行動の定着を促すための新たなコーチング技法であり、行動という表層レベルの修正を行うのでなく、心の内面からの変革をもたらすことを目ざす。

 「こうするように」「こうしたほうがいい」と指示するのでなく、本人の気づきを促し、本人自身が「こうするのがいいだろう」「こうしたい」と思い、自ら変わっていくように導く。そうした働きかけを本人の語りを重視しつつ行っていくのがナラティブ・コーチングである。指示でなく、視点を揺さぶる、語りを引き出す言葉がけを積極的に行う。

 語る生き物、対話する生き物である人間には、ナラティブが最も心に浸透する通路となる。ゆえに、心の中からの変革をもたらすのがナラティブ・コーチングであるといえる。

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最終更新:9/13(火) 11:26

NIKKEI STYLE

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