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西側を脅かす新世代の潜水艦

Wedge 9/13(火) 12:10配信

 8月6日付の英エコノミスト誌は、西側の潜在敵国は、音が静かで兵装を充実させた潜水艦を増強していて、西側の脅威となっていると警告しています。要旨は、次の通りです。

潜水艦を強化した中露と予算を削った西側

 2006年、沖縄近海で中国の潜水艦が米空母の魚雷の射程内に浮上し、また、昨年、フロリダ沖の演習で仏原潜が米空母に撃沈可能な地点まで接近したが、いずれも米国の護衛艦や対潜機は事前に察知できなかった。これらが示すように、新世代の潜水艦は音が静かになっている。また、潜水艦を擁する国は約40カ国に増え、その多くは西側の同盟国ではない。

 さらに、新世代の潜水艦は、魚雷に加えて対艦誘導ミサイルも搭載するなど、武器も充実している。中国の潜水艦は、海上をほぼ音速で290キロ飛行可能なミサイルを、ロシアの潜水艦は最高速度マッハ3のミサイルを搭載している。ところが、西側諸国は冷戦終了後、対潜予算を削ってきた。米空母は2009年に対潜戦闘機が退役すると、代わりに短距離ヘリを搭載した。護衛艦の数も減った。

 西側の潜在的敵国は、西側の既存の防衛システムが探知・追尾できる以上の数の潜水艦を配備ないし発注しているのが現状だ。イランでさえ、小型潜水艦10数隻とロシア製キロ級潜水艦3隻を保有している。そのため、今や多くの軍艦が脅かされている。そこで、重点を追尾に置いた新たな対策が講じられつつある。広い海洋では探知より追尾の方が技術的にはるかに容易だからだ。

 ただ、現在これを担っている駆逐艦や原潜は莫大な建造費と維持費がかかる。そこで、西側諸国はより小型の無人船ドローンに肩代わりさせようと、研究開発を進めている。米国は、敵の潜水艦を海上から何ヶ月も追跡できる無人機を開発中で、コストは1機2000万ドルとされる。これなら多数配備でき、また、ディーゼル潜水艦よりも操作性、耐久性、速度に優れているので、海中の機雷捜索等にも使える。

 では、肝心の潜水艦の探知はどうするのか。音は距離の二乗に反比例して弱くなるため、探知機は標的の近くにある必要がある。これは、領海内なら、大量の固定探知機を縦横にめぐらすことで実現できる。実際、シンガポールは2、3キロ間隔で海底にブイを固定し、これらは振動で互いに通信できる。今は試験的にメッセージを発するだけだが、いずれ潜水艦探知センサーを搭載することになろう。一方、大型潜水艦を模倣した音を発して、ドローンを誤った方向に誘導する等、ドローンへの対抗手段も開発されつつある。

 このように、独Uボートの登場以来続いてきた水上艦対潜水艦の競争は、技術的進歩によって新たな局面を迎えている。現時点では、潜水艦に分があるが、この状況が長く続く保証はない。

出 典:Economist ‘Seek, but shall ye find?’ (August 6, 2016)

 この解説記事は、技術的進歩と潜水艦保有国の拡散により、潜水艦が西側の安全保障にとって問題を提起しつつある、と述べています。技術的進歩については、先ず新世代の潜水艦が静かになっていることで、米国の空母の護衛艦や対潜機が中国やフランスの潜水艦の異常接近を察知できなかった例が挙げられています。さらに中国やロシアの新世代の潜水艦が、魚雷に加えて対艦誘導ミサイルを搭載するなど、兵装を充実させている、と述べています。保有国の拡散については、保有国の数が約40か国に増え、その多くが西側の同盟国でないことを指摘しています。

 エコノミスト誌は、このような傾向は西側の安全保障にとって問題であると述べていますが、問題を誇張しているきらいがあります。先ず中露の新世代潜水艦の兵装の充実ですが、冷戦後、潜水艦の、水中から高距離のミサイルを発射する対地・対艦攻撃プラットフォームとしての役割を重視するようになったのは、米国が最初でした。今や米国では潜水艦がイージス艦などの水上艦の任務を補完する形で、対地・対艦攻撃任務の一部を肩代わりしています。

 次にエコノミスト誌は、潜水艦保有国の多くが西側の同盟国ではない、と警告しています。確かに中露の他に例えばイランが小型潜水艦10数隻を保有していますが、他方でインド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなども潜水艦の取得、運用に力を入れています。これら諸国の重要な動機の一つは、中国に対する対抗であり、これは西側にとり好ましいことです。

 潜水艦は、中露と西側の今後の戦略バランスの鍵を握ると言っても過言ではありません。それを左右するのは技術であり、ここでも米国が先頭を切っています。今潜水艦の任務として探知より追尾に重点が置かれているとのことですが、米国は莫大なコストのかかる駆逐艦や原潜に代わって、無人対潜システムの開発に力を入れています。敵の潜水艦を海上から何カ月も追跡できるという無人対潜システムの進水式がさる5月に行なわれたといいます。

 このように潜水艦関連技術でも米国が世界をリードしていますが、これを支えるのが予算であることは言うまでもありません。米国の国防予算は、米国の財政事情、民主、共和両党の争いの結果、常に削減の危機に立たされていますが、米国、そして西側の安全保障の確保のため、米国の国防予算は党派の利害を超えて充実されるべきです。

 日本は潜水艦に関して米国と協力する余地が十分あります。一つは従来型の対潜協力で、理想的な役割分担としては、海自が南西諸島から台湾、バシー海峡に至る「第一列島線」北西部のチョークポイントを固め、米海軍の原潜と哨戒機を南方や西太平洋での追跡任務に専念させることが考えられます。

 第二は東南アジア諸国の潜水艦運用能力構築支援を通じた協力です。例えばベトナムはロシア製のキロ級潜水艦の運用に関しインド海軍から訓練を受けていますが、これに日本が参加すれば、当該地域での中国潜水艦の活動情報を多国間で共有でき有意義です。このほかに、不測の衝突を避ける人工知能の開発、継続的・効率的な運用を可能とする高性能のリチウムイオンバッテリーの開発など、技術面での日米協力が望まれます。

岡崎研究所

最終更新:9/13(火) 12:10

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