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感覚で仕事をする社員に“算数”を教えて意識改革

Wedge 9/13(火) 12:30配信

 会社を立て直すとき、即戦力となる人材を採用することができず、今いる人材の教育や登用のみで取り組まなければならないときがある。

 銀座にあったフレンチレストラン「マキシム・ド・パリ」で社長を務めたとき、まさにこの課題に直面した。当時マキシムの経営は最悪で、治療法がすぐには見つからないどん底状態だった。ましてや、新たに優秀な人材を採用する資金力は残っていなかった。

 社員たちは経営状況を感覚的に把握していたため、まずは数字で理解することを促した。会社が瀕死の状態であることを社員が正しく認識・共有することで、危機意識の醸成と仕事に対する意識改革を試みた。というのも、経営改善をしようにも、当時は経営層の指示に対して若手が現場の経験則から反発しており、両者の間で議論がかみ合っていなかった。

 そこで、「そんなに気に入らないなら自分たちが経営層の代わりになればいい」と若手に経営情報を伝えたことで、彼らの奮起が始まった。

 社内塾を開き、売り上げが発生してから、原材料の購入や廃棄などの費用がかかり、最終的に利益がどう生まれるのかを自ら考えられる素養を身につけさせた。経営状況を家計に例え、小学校3年生程度の算数でそれらを理解できるテキストも自作し、危機意識を高めていった。

 そのうえで若手に、気温と天候を踏まえ、どのように売り方や仕入れを改善するべきか、数字で仮説を立てさせ実践させた。仮説がうまくいった場合は、それを現場の声として集め、お客様の温かいお褒めの言葉や失敗から学んで得た教訓とともに横展開をし続けた。これを繰り返していくことで、数字へのこだわりが社員の中に浸透し、お互いのコミュニケーションの基礎となっていった。

 次第に若手は、単に売り上げと利益だけを追い求めるのではなく、作業の効率性や安全性を高めるための人材の配置やマニュアルの確立などを自主的に行えるようになった。

 仕事の原理・原則を理解したことで、自分達で会社を変える意識が目覚め、結果に対する厳しさを持つ組織に生まれ変わった。そして、過去の失敗にはとらわれず、リスクを取って頑張るメンバーを抜擢し続けることで、組織全体も挑戦する気概にみちていった。

 会議の質も一変した。役職にとらわれず、実務を一番理解している社員が発表する方式に変わり、自らの業務に誇りと自信が出てきた。3カ月先の需要予測と同業他社の分析、コスト削減策の検討・提言などを社員自らが行うようになった。

 例えば、ある商品では当初、毎日2桁以上の比率で廃棄ロスを出していたが、現場が自ら新たな発想を取り入れて工夫を重ね、いつのまにかそれは1%未満にまで下がっていた。こうして社員自身が変わったことで、マキシムは瀕死の状態から脱し、生まれ変わった。

 一度どん底に陥った組織を変えるのは簡単ではない。各々の当事者意識を向上し、再生を促すには、こうした小さな成功体験の積み重ねが必要だ。

寺川尚人

最終更新:9/13(火) 12:30

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