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NHK朝ドラ「とと姉ちゃん」では扱われなかった公害問題〈週刊朝日〉

dot. 9月15日(木)7時0分配信

 視聴率トップをひた走るNHK朝ドラ「とと姉ちゃん」。ドラマは「暮しの手帖」を創刊した大橋鎭子(しずこ)、花森安治(やすじ) がモデルだといわれる。その編集部に所属し、名編集長の花森から18年にわたり薫陶を受けてきた愛弟子の一人である小榑(こぐれ)雅章さん(78)は、作中に登場する「商品テスト」にNHKが描かない部分があったと異議を唱える。

* *  *
 大手電機メーカーもある種の権威で、魅力的な商品広告をメディアに載せ、ドンドン宣伝をし、庶民はそれを十分にチェックできず、鵜呑みにしてなけなしのお金で購入してしまう。花森イズムで当時から広告費を企業からもらわず、庶民の代わりに商品テストを行い、検証の結果をありのまま、「暮しの手帖」で書いた。

小榑:われわれはただ批判をしたのではなく、メーカーがそれを改良してきたら、そのことを必ず記事に取り上げました。リターンマッチがいくらでも可能な仕組みになっていたのです。

 あの時代は、公害の問題も出てきて、人々の生活が脅かされていました。それに対して、「暮しの手帖」では、食用色素の危険性も指摘しました。当時は、食品にいろんな色素が入っており、それが体に害がある恐れがあるにもかかわらず、国は黙認していました。編集部でアイスキャンディーを何百本も検査した結果、4本に1本の割合で大腸菌が検出されたこともありました。食品公害という言葉を作ったのは、「暮しの手帖」なのです。

 しかし、NHKのドラマでは商品テストで食品公害などの問題に関してはタッチせず、花森イズムを感じさせるようなセリフもあまり入っていなかったのは残念でした。

――花森は編集者として読者の関心をいかにつかむかという表現方法を大切にしていたという。

小榑:例えば、商品テストの記事で、きれいな服を着た女性がベビーカーを押して、それを土手の上から写している写真が使われました。これに対し、「あんなきれいな服を着てテストをやるはずがない、インチキだ」と言う人もいるわけですよ。花森さんに言うと、高笑いですよ。たくさん手に取って読んでもらいたいのに、作業服を着たおじさんらを登場させ、誌面をわざわざ汚らしくする必要があるのかと。大事なことは、インパクトのある表現で、自分たちの思いを伝えること。「一生懸命書きました」と言っても、伝わらなければ意味がないという考え方でした。

――そんな花森が生きていて、今のメディアやジャーナリズムの現状を見たら、悲しい思いをするだろう、と小榑さんは指摘する。花森はジャーナリズムに関して「権力の番人」という確固たる信念があったのだ。

小榑:当時、「暮しの手帖」には中立というものがなかった。庶民の立場に立って、こうなってはいけないと思うから発言する。「ジャーナリストは命がけなんだ」「牢獄に入ってもよい覚悟があるか」と花森さんによく言われました。今のメディアは「~ではなかろうか」とか、「○○先生はこういう」とか、談話でしか言わないわけでしょ。こうした中立的な報道は、事実を報道しないことに等しい。例えば、今の時代、われわれは本気でもう一度、戦争する覚悟があるのか、兵隊になってもいいのか。そこまで突き詰めていかないといけないのですが、そこがいい加減だからいけない。誰のために、何がしたいのか、徹底的に突き詰めて考える。今のジャーナリズムにはその気骨がない。もっと頑張ってもらいたい。(構成 本誌・吉﨑洋夫)

※週刊朝日 2016年9月23日号より抜粋

最終更新:9月15日(木)11時36分

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