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「悪いヤツほど出世する」のは本当か? あなたの職場がどんどん悪くなる理由

NIKKEI STYLE 9/14(水) 11:00配信

リーダー教育産業の失敗

 「世の中を見回すと、やる気を失った社員、不満を抱く部下、悩める中間管理職があまりに多く、その一方で、過ちを犯し、職を失うリーダーも後を絶たない」。スタンフォード大学ビジネススクールの名物教授で、経営学修士(MBA)のコースで組織と権力ついて教えているジェフリー・フェファー氏はこのように指摘する。同氏の最新刊『悪いヤツほど出世する』から、世の中に出回るリーダー論の「ウソ」を小気味よく指摘する序章を7回に分けて紹介しよう。

 本書は現状の観察から始めて結論を下し、提言をするという構成になっている。まずは現状観察の結果をかいつまんで言うと、こうだ。

 一方には、リーダーシップ教育やリーダー育成に携わる産業が存在する。商売繁盛のこの産業は、なお拡大中だ。書籍、雑誌、講演、ブログからワークショップ、会議、セミナー、企業内研修にいたるまで、リーダーシップに関するありとあらゆる活動が数十年にわたって展開されてきた。そしてリーダーシップを通じて集団や組織のパフォーマンスを向上させるためのさまざまな処方箋が提案されている。なかには調査研究に基づいたものもあるが、そうでないものも少なくない。その内容は、数十年間ほとんど変わっていない。主なものを挙げると、リーダーは信頼を得よ、最後に頼れる人であれ、真実を語れ、人に(とくに顧客や部下に)尽くせ、控えめであれ、思いやりと理解と共感を示せ、等々である。どれもたいへん結構だが、効果のほどは疑わしい。

 その一方には、職場の現状がある。やる気がなく、不平不満だらけで、上司は信頼されず、多くの社員が早く辞めたいとか上司を追い出したいと考えている。その結果、どんよりして活気のない職場が蔓延(まんえん)する。こうなると、リーダー自身もいつクビか降格になってキャリアを台無しにするかわかったものではない。これではますますパフォーマンスは上がらなくなる。

 この二つの事実から結論を引き出すことができる。それは、リーダーシップ教育産業は失敗した、ということだ。彼らの情熱は認めるとしても、効果があったという証拠はあまりにも乏しい。それどころか数々のプログラムは、世間が思う以上に無益であり、むしろ有害である。その結果、職場にもリーダー自身にも悪影響をおよぼしている。残念ながら、事態がよくなる兆しは見当たらない。

 こんなことを言うのは、けっして私一人ではない。リーダーシップをめぐる状況を調査した二人の心理学者によるれっきとした学術論文では、リーダーシップ教育への「こうした支出が……よりよいリーダーを生み出しているという証拠はほとんどない」と結論づけられている。また、ハーバード大学ケネディ・スクールでリーダーシップを教え、公共リーダーシップ・センターを創設したバーバラ・ケラーマンも同意見だ。ケラーマンは近著の中で、リーダーシップ教育産業は「およそ40年にわたる歴史があるが、人材の向上に関して測定可能な有意の成果を上げることに失敗した」と述べ、「リーダーシップというものが人々の憧れの対象になった時期は、アメリカ社会においてリーダーシップの評価が下がった時期とぴたりと一致する」と指摘している。

 長いこと私は、この惨憺(さんたん)たる状況はリーダーシップ教育とは無関係なのだと考えていた。一方にいい気分にさせてくれるリーダーシップ教育産業があり、一方に悲惨な職場があるのは、たまたまなのだろうと。だが観察と調査の末に、リーダーシップ教育産業は長年の努力にもかかわらずよりよいリーダーの育成に失敗しただけでなく、意図せざる結果とはいえ、事態を悪化させているのだと結論せざるを得なくなった。この状況を改善する方法はあるが、後段であきらかにする理由から、その実行は容易ではない。

 圧制的な上司やストレスの多い職場に起因する心理的被害、さらには身体の健康被害を憂慮するなら、また、過ちを犯したり燃え尽きたりして退任を迫られるリーダーの人的コストに苦慮するなら、リーダーシップ教育産業の失敗の原因を究明し、是正する必要がある。こうした心配をするのは私一人だけではないと信じる。このテーマに取り組んだ成果を本書で示したい。

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最終更新:9/14(水) 11:41

NIKKEI STYLE

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