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激震欧州、英国の次は美人ローマ市長率いるイタリア

Wedge 9/14(水) 12:20配信

 6月に行われた国民投票で英国民が「EU離脱」を選択した一件は、日本でも大きく報じられた。だが、これはEU内でくすぶる火種の一つに過ぎない──。

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 英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択したことで、欧州の亀裂がさらに広がり始め、“離脱・独立ドミノ”が懸念されている。

 マリーヌ・ル・ペン氏が率いる極右政党「FN(国民戦線)」が勢力を伸ばし、来年大統領選挙が行われるフランス、自由党のウィルダース党首が国民投票を呼び掛けるオランダ、「極右」大統領が誕生しそうなオーストリアなどがEU離脱を目論(もくろ)み、英国ではスコットランドが、スペインではカタルーニャが虎視耽々(こしたんたん)と独立を狙っている。

 なかでも次なる爆弾と目されるのは、イタリアだ。ローマとトリノの市長選で、元コメディアン率いる新興政党「五つ星運動」の女性候補が予想を上回る大勝を収めた。「五つ星運動」は単一通貨ユーロの是非を問う国民投票を主張しており、ローマ市長の行政手腕が認められれば国民投票の実施に向け弾みがつく。

 議会改革を目指す今秋の憲法改正国民投票が否決されればレンツィ伊首相は辞任、次の総選挙で「五つ星運動」が議会第1党に躍り出る可能性がある。しかし彼らの政策、政治手腕はまったくの未知数なのだ。一方、スペインのカタルーニャ自治州では独立運動が燃え上がる。この勢いを止めるのはもはや難しいだろう。ローマとバルセロナから報告する。

立ち居振る舞い、表情、仕草 すべてが絵になるローマ市長

 「私たちがローマ市議会の野党だった時、歴史ある市庁舎の門は市民に対しずっと閉ざされていた。これからは8月を除き毎月最後の日曜日に皆さんに開放します」。6月の統一地方選でローマ初の女性市長に選ばれたビルジニア・ラッジ氏(38)は7月31日、ローマ市本部庁舎になっているカンピドリオ広場のセナトリオ宮に市民を招き入れ、こう宣言した。セナトリオ宮には紀元前に遡るローマ帝国の遺跡が取り込まれている。政財官の権力と癒着の象徴、セナトリオ宮が暴力革命ではなくラッジ市長によって開放された。

 1回に入場できるのは30~40人と限られているため、セナトリオ宮の外には気の遠くなるような長い列ができた。最長3時間半待ち。最初のグループを案内したあと、ラッジ市長が列をつくる市民1人ひとりと握手し、「グラッチェ(ありがとう)」と声をかけた。彼女の立ち居振る舞い、表情、仕草のすべてが絵になる。「政治腐敗を何とかして」「ゴミ回収やバスの運行を改善してほしい」と市民が声を上げる。ラッジ市長は立ち止まり、「改革には時間がかかる。私たちに時間を下さい」と真剣な眼差しを向けた。

 ラッジ市長はローマ第3大学で法律を学び、弁護士になった。結婚して一児を授かり、ローマ市内の二重駐車の多さに衝撃を受けた。車の隙間を、ベビーカーを押して通り抜けなければならない。「美しいローマがこんなにひどい状態になり、腹立たしかった」という。2011年に「五つ星運動」に参加したが、政治経験はローマ市議に初当選してからの3年間だけ。市長選では公共交通機関の整備、情報公開、ゴミ政策、環境の改善など、ローマを正常化する11のステップを訴えた。

 レンツィ改革で女性の政界進出は進んだが、イタリア女性の労働参加率はまだまだ低い。「子供を産むなら仕事を辞めろ」という無言の圧力がかかるからだ。ラッジ市長のように家庭も仕事も両立している女性は改革のシンボルだ。イタリアと日本の国旗をあしらい、「友」とプリントしたTシャツを着たロッコ・ディサントさん(35)は日系企業に勤務している。「ラッジ市長や五つ星運動がイタリアの改革に失敗したら、私たちはたった1つの希望を失ってしまう」と話した。

 元コメディアンのベッペ・グリッロ氏(68)が09年に創設した「五つ星運動」は今回、4大都市のうち首都ローマとトリノの市長選を制した。ラッジ市長は決選投票で3分の2を超える支持を得て民主党の対立候補を撃破した。トリノでも女性候補キアラ・アペンディーノ氏(32)が民主党現職を破った。最近の世論調査では「五つ星運動」が政権与党の民主党を何度も上回っている。レンツィ首相は11月ごろ、上院の権限を削ぎ下院優越を明確にする憲法改正を国民投票にかける予定だが、英誌エコノミスト元編集長ビル・エモット氏は筆者に「おそらくレンツィ首相は敗れて辞任、総選挙になる。どの政党も過半数を形成するのは難しい」と語る。政治の地殻変動はもう誰にも止められない。

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最終更新:9/14(水) 12:20

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