ここから本文です

EU体制維持のために浮上した「2速度の欧州」論。しかしそれでも問題は山積み

HARBOR BUSINESS Online 9/14(水) 9:10配信

 英国がEU離脱を決めたことが影響して、EUの今後のあり方が問われている。その中で、EUの発展に「2速度の欧州(two speed Europe)」の適用が必要だという意見が浮上してきたのだ。

「2速度」、すなわち、経済力の強い国と弱い国が別々に分かれて2つの異なったスピードで経済発展を計ろうとするものである。

「2速度の欧州」というのは、ドイツのメルケル首相が2012年6月に<ユーロの安定化と現在の種々問題を乗り越えてEUを統一するには、二つの異なった速度をもったヨーロッパが必要であろう>と述べたことに端を発する。(参照:「ABC」)

 EUの統一化で目指すものは財政の統合である。しかし、そこに至るまでには28か国(英国が離脱して27か国)が同じ歩調で歩むのは無理があるということなのである。

◆「2速度の欧州」を象徴する動き

 そして、この「2速度」を象徴するような動きが9月9日に起きた。ギリシャのチプラス首相の呼びかけによって南欧首脳会談(EUMed)がアテネで開かれたのである。参加したのはフランス、イタリア、ポルトガル、スペイン、マルタ、キプロスそしてギリシャの7か国の首脳である。EU加盟の南欧諸国は一般に経済力の弱い国とされている。すなわち、2速度の「遅いほう」の速度を適用される国々が集まったのである。

 スペインの国民党のラホイ首相はこの会談への出席を辞退した。その代りに、経済次官を送った。出席を辞退した理由は、他6か国の首脳はどこも左派政権で、この開催にEU議会の保守派政党が批判しているのを配慮したものであろうと推察されている。この首脳会談の目的は次回スロバキアのブラチスラバで開催されるEU会議に南欧加盟国の間で共同歩調を取ろうとするものである。この会談で経済成長するための政策の必要性、難民問題に対して共同で責任を負う体制、ヨーロッパで拡大している反体制派ポピュリズムの動きを抑える対策などが協議されたという。

◆「2速度」でも打破できない現実

 しかし、2速度を適用するにしても、EUの財政統合は現時点でも近い将来においても実現は不可能である。何故なら、EU加盟国28か国の間で経済格差が余りに大き過ぎることである。そして、今も消費税や法人税など税率が自国の経済発展を優先させるために国同士で異なっている。例えば、一人当たりの国民所得を見ると、EUの平均を100%とすると、上位3か国はルクセンブルグ276%、オランダ131%、ドイツ121%となっている。下位を見ると、ブルガリア38%、ルーマニア41%、ポーランド54%となっている。

 この大きな格差があるにも拘わらず、これまでEU委員会はひとつの政策を決め、そして欧州中央銀行(EBG)が金融部門を担当して28か国すべての国にそれを適用させようとした。2012年のEUの失業率は11.8%、スペインは26%、ドイツ5.4%という労働事情であった。それに対して、ひとつの経済・金融政策を決めて実施して行くのは無謀としか思えない。

 しかし、これまではそれを実行していたのである。その結果、一部の国には恩恵ももたらした。特に恩恵に預かったのは、ドイツだ。

 例えば、リーマンショックの後、ギリシャ危機に見舞われるとユーロ安となった。輸出競争力のあるドイツは安いユーロのお陰で輸出が倍増したのである。ドイツの通貨がマルクであれば経済が好調になると、その反動でマルクは値上がりする。しかし、EUではユーロが共通の通貨である。ギリシャなどの経済不安が安いユーロを誘い、それをドイツは利用したということだ。

 しかし、これらの「恩恵」は、当初から弱い通貨を持っていたギリシャ、ポルトガル、スペインにとっては痛手だった。各国はユーロの導入で生活物価以上の貨幣価値が生まれ、物価は上昇し景気の後退を生んだ。それが、債務の急増を誘うことになったのだ。

◆各国の格差が生み出した「歪み」

 経済力の弱い国では景気後退を前に公共投資も必要となった。しかし、ドイツが主導するEUはインフレの上昇を恐れて緊縮政策を実行させた。それがまた経済力の弱い国では景気の後退を更に煽ることになった。その結果、失業率も上昇するという結果を生んだ。一方のドイツは輸出の好調で雇用は増大した。

 一方、経済問題に加えて浮上してきたのは、移民・難民問題だ。特に、問題が深刻な財政ダメージをとなっているのが、難民が到着しているギリシャとイタリアである。ギリシャの場合は昨年100万人が到着し、現在6万6300人が難民として全国に散在しているという。(参照:「Publico」)

 EUから助成金は出ているが、彼らを人道的に維持するには十分ではなく、ギリシャ政府の負担になっている。

 難民問題については、またひとつ新たな問題が生まれている。ヴィシェグラード・グループと呼ばれているポーランド、ハンガリー、チェコ、スロベーニアの4か国が難民の受け入れに反対し、EU委員会が設定した難民受け入れ割り当てを拒否しているのである。(参照:「La Informacion」)

◆EUの先行きを暗くする課題は山積み

 更に、EUの将来を不安に陥れる問題は山積みされている。

 イタリアとドイツが抱える銀行危機。フランスでのテロ問題と来年の大統領選挙に向けて支持を伸ばししている極右派によるEU離脱の動き。ギリシャとポルトガルの財政危機。また、10月にはイタリアで上院改正案について国民投票が予定されている。これに反対派が勝利するとレンツィー首相政権の崩壊は必至である。スペインは10か月以上政権の誕生がなく、選挙前の政権が暫定政府として政権を運営している。12月に1年以内の3回目の総選挙が実施される可能性がある。これらすべてがEUの統合を妨げる要因になる要素をもっているのである。

 そして、これらの問題の中でも一番危険性を孕んでいるのはドイツとイタリアが抱える銀行危機である。ドイツ銀行が破綻でもするとEUは一挙に解体に向か可能性がある。

 果たしてEUの未来はどこに向かうのだろうか?

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:9/14(水) 13:26

HARBOR BUSINESS Online

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。