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「雇われ社長」でも、社員の心を動かすリーダーになる方法 ~辣腕プロ経営者が語る

NIKKEI STYLE 9月15日(木)7時0分配信

 日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏。普通のサラリーマンだったという同氏は、米国留学を経て3つの会社の経営トップを経験、プロの経営者の先駆けとなった。外資系のIT(情報技術)企業のほか、再建の渦中にあったダイエーなど流通大手も率いた。激しく経営環境が変化するなか、リーダーには何が求められるのか。樋口氏の連載4回目は「リーダーの自己変革」をテーマに語る。

■完全な自由裁量のないなか、社員にどのような夢を与え実績を創造するか

 私は三つの会社の社長を務めたが、それぞれに抱えていた任務は異なっていた。日本HPではM&A(合併・買収)後の「ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI=買収後の統合)」で合併効果の最大化を任務とし、ダイエーでは経営再建を軌道に乗せる「ターンアラウンド(事業再生)」に努め、日本マイクロソフトでは持続的な成長に向けた「トランスフォーメーション(事業の構造的変革)」を担ってきた。
 それぞれの状況に応じてマネジメントの手法は異なっている。それでもなお根底にある経営への取り組みは同じものだったのではないかと思っている。それは、「完全なる自由裁量のないなかで、社員にどのような夢を与え実績を創造するか」である。
 「完全なる自由裁量がないなかで」というのがミソで、そこにオーナー社長とも生え抜き社長とも違う立場があった。誤解されないように書いておけば、日本HPでも日本マイクロソフトでも経営トップとしての裁量は十分に確保されていたが、それは現地法人社長としての裁量にすぎない。ダイエーでは、官民ファンドに招へいされた雇われ社長であり、成果を求められれるがゆえに自由度は大きかったが、資本が変われば「そこまで」という首の皮が薄皮1枚つながっているだけの自由度だ。
 そうした制約のなかで、いかに社員に夢を与え実績を創造するのか。そこにこそ私なりの取り組みがあった。

■「負け癖」の連鎖を断ち切ることを狙ったダイエー再建

 「夢を与え実績を創造する」とは、「社員にめざすべき状態と、そのための具体的な仕事を用意し」「リーダーとしての素の姿を見せながら一緒に実現する」ことである。
 社員が朝起きたときに「さぁ、今日も仕事だ。頑張るぞ」と前向きな気持ちになれるのは、「自分の努力が、少なくとも会社を明日へとつなげている」と実感できているかどうかだろう。
 経営破綻したダイエーでは、どんなに努力をしてもなすことのすべてが前向きにならず、後ろ向きの回転が加速するばかりの日々が続いていた。流れに楔(くさび)を打ち込めるのは、経営トップの“権力”“裁量”しかなかった。それが分かると、社長直轄プロジェクトを通じて楔を打ち込むのを決意した。
 プロジェクトは、「これをやってみよう。その結果として私たちに欠けているものが見え、同時に突破口が見えてくる」という具体的な目標を示し、リーダーが自ら率先して成功体験をつくり、「負け癖」の連鎖を断ち切ることを狙った。
 なかでも全力を注いだのが「新鮮野菜宣言プロジェクト」だ。野菜はスーパーの「顔」とさえ言われているのに、ダイエーでは本部主導のセントラルバイイングの弊害で、価格は高く、売れないから鮮度も落ちていた。
 そこで本部の青果部門だけでなく営業戦略、人事、物流、情報システム、そして店舗従業員など20人を集めてプロジェクトを立ち上げた。その目標は、「競争力のある新鮮な野菜を、収穫から1日で店頭に並べる」というシンプルなものだった。
 しかし、その実現はきわめて難しい。セントラルバイイング(本部集権型の集中仕入れ)の体制を変えて店舗ごとの直仕入れの比率を高め、そのための仕入れネットワークをつくらなければならない。3カ月をかけて準備したプロジェクトでは、地元から仕入れる野菜の比率を20%から50%に高め、売り場の人員も2割増強した。
 そしてダイエー全店で始まった「新鮮宣言キャンペーン」は、お客さまの評価を大きく変えた。それまでは、野菜をひっくり返して裏側を確認していたお客さまが、野菜をほとんど見ずに買い物かごに入れてくださるようになった。こういうお客さまの姿、また「この前のレタスおいしかったわ」というお客さまの何気ない一声。これが現場に自信を取り戻させ、お客さまに満足を提供するという夢と喜びを呼び覚まし、新たな好循環を生むのである。

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最終更新:9月15日(木)7時0分

NIKKEI STYLE

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