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「美容」にまつわるメモ<ひとり暮しの手帖>

幻冬舎plus 9月15日(木)6時0分配信

山田 マチ

 ひとりで暮していますと「おはよう」も「おやすみ」もありません。人としゃべらないと、どんどん口角が下がってくるように感じます。最近顔を動かしてないな、と思ったら、宝塚スターを想像して「あいうえお」と声に出してみましょう。男役のトップになったつもりで、唇がさけそうなほどに口を開いて。ふだん使わない顔の筋肉が動くのがわかります。

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 お金がかからず、手間がかからず、器具も使わない美容法は、気が向いたらやっています。クリームをつける前に手の中で温める。つけてから手でしばらく押さえ込む。小鼻の脂がういてきたら目尻にぬる。などです。3つめのは、無駄がなく気に入っていますが、出どころが定かではないので、人にはすすめられずにいます。

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 以前、あまり陽の当たらない部屋で暮したことがあります。鏡のまわりに窓がなく、電球は薄暗くオレンジがかった明かりでした。たまに自然光たっぷりの部屋や、蛍光灯がこうこうと光る部屋に入って鏡を見ると、その都度ぎょっとしていました。ありのままの姿から目をそらさないために、鏡のまわりは明るくしておきましょう。

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 食べたいときに食べたいものを食べられるのが、ひとり暮しの利点。ときどき無性に、チェーン店の牛丼を食べたくなります。食べると翌日にフキデモノがでることがわかっています。でも我慢できません。フキデモノの恐怖と戦いながら、欲望に身を任せてツユダクをかっこみます。

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 美容関連で母から唯一教わったことは、「まゆはしっかり」。化粧せずとも、まゆだけはきれいにしておけ、と口すっぱく言われていました。そんな母は、長期入院することになったとき、まゆのいれずみをする「アートメーク」をして臨みました。顔だけは元気ハツラツ。あんまり心配する気になれませんでした。

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 「なんでそうなるの」と問いかけたくなる、独特のまゆをしている人がいます。なぜ人は、自分のまゆの形を見失ってしまうのでしょうか。ひとり暮しですと、近くに「へんだよ」と言ってくれる人がいないので、注意が必要です。ときどき親しい友人や家族に「私、見失ってない?」と確認をとるようにしています。

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 ほっぺたの真ん中あたりのほらこのへんにね、美容のツボがあるんだよ、と、むかし近所のおばさんが教えてくれました。そのときから、ほおづえをつくときは、手の平ではなく、指の関節でそのツボを押すようにしています。ぼーっとしながらも美しくなれて一石二鳥です。

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 両親とも色白で、私自身も銭湯で見知らぬおばちゃんから「あんた白いね!」と声をかけられるほどです。同じく色白の妹が、突然、黒くなっていたことがあります。当時流行だった「ガングロギャル」に変身していたのです。日焼けサロンに通ったり、濃いファンデーションをぬったり、家のベランダで一日中ねっころがったりと、ずいぶん努力していましたが、「ほかの子に比べて手間がかかりすぎる」という理由ですっぱりやめていました。遺伝には逆らわないほうがよいようです。

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 のどが弱く寒がりなので、首にタオルを巻いて寝ています。どこかで聞いたのですが、そうすると首まわりにしわがよりにくくなるんだそうです。知らぬ間の美容。首まわりを露出すると風邪をひいてしまうので、お見せできないのが残念です。

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 テレビを見るとき、みけんにしわを寄せるクセがあります。それは幼いころからで、ドリフや新喜劇を真剣に見ている私を、家族は心配したものでした。みけんにしわを寄せていることに気づいたら、人差し指でこすってのばすようにしています。「怒るでしかし」と心のなかでつぶやきながら。

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 世の中には多種多様な石鹸があふれています。値段も成分もピンキリで、選ぶのもめんどうなので、ここ数年はずっと同じ、100円のふつうの石鹸を使っています。顔も体もそれひとつで洗っていますが、とくに問題ありません。安上がりな体に感謝しています。

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 化粧水は、ずっと同じ無印良品のものを使っています。肌に合うというのもありますが、いちばんの理由は、全国どこでも手に入るからです。旅先に忘れても、違うものを使わなくてよいので、安心です。

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 日焼け予防に、顔全体を覆うサンバイザーをかぶって自転車に乗るおばちゃんを見かけます。黒いマスクで顔をかくす戦隊ヒーローのようです。素顔がばれてはいけない、おばちゃんヒーロー「サンバイザー」。町と家庭の平和を守るため、自転車こいでパトロール。

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 人に会う前、自分の顔が青白く元気がないように見えるな、と思ったら、取り組み前のおすもうさんのように、手の平で頰をパンパンたたきます。気合いも入りますし、赤らみますので、チークがわりだと思っています。

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 ダイコンやカブをやたらめったらに食べる時期があります。肌が荒れたように感じるとき、無意識に買ってしまうようです。美容効果のほどはまったく知らないのですが、見た目がそうさせるのでしょう。むろんどちらもすぐには食べきれず、何日も食べ続けることになります。

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 ときどき肌に対して「なにもしない日」をつくります。どこにも出かける用事のない日、顔を洗ってから何もつけず、ほったらかすのです。肌を甘やかさず、「自ら潤ってみろ!」とけしかけるスパルタ美容。カピカピの向こう側が、きっとあるはずです。

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 スパルタ美容の翌日は、いつもより多めに化粧水をつけます。「どうだ~潤いだぞ~もっと吸い込ませてやろうか~」。肌に対するツンデレです。

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 レモン何十個分のビタミンとか、ナントカ菌何億個などと、美容効果をうたう食品がありますが、一度に何十個もレモンを食べるのは体に良くないと思いますし、見ず知らずの菌が何億個も一気に体に入ってきてウヨウヨするのかと思うと、「きもちわる」と思います。

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 仕事ばかりの日々がつづくと、口まわりのうぶ毛がどんどん濃くなっていきます。男性ホルモンが勢力を増していくのでしょう。このまま無頼漢とかブロンソンみたいな風貌になってしまうのではと心配になります。たまには、異性に会ったほうがいいのでしょうか。恋愛映画でも見たほうがいいのでしょうか。アイドルを追っかけたほうがいいのでしょうか。どうしたらいいのでしょうか。

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 一体誰のために、何のために、美しい肌でいたいのでしょう。もはや、自分のためでしかありません。鏡がいやにならないために、顔をさわったとき、お、調子がいいぞ、と思いたいがために、今日もクリームをぬって寝るとします。



■山田 マチ
作家。著書に『山田商店街』、児童書「山田県立山田小学校」シリーズがある。

最終更新:9月15日(木)6時0分

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