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プールや温泉の「イレズミ・タトゥーお断り」は正しいのか?【『イレズミと日本人』インタビュー 前編】

ダ・ヴィンチニュース 9/15(木) 6:30配信

 2016年8月、東京八王子市にあるレジャー施設「東京サマーランド」のブログが炎上した。プールがメインのこの施設では、2008年からイレズミやタトゥーがある客の入場を禁止しているが、

「イレズミを身体に入れる自由があるようにイレズミの方の入園をお断りする自由もあるのです」
「イレズミ等のある方はサマーランドを利用することはできないので来ても時間やお金の無駄になるという話です。(略)案内はしているので見てないとか聞いてないというのは言い訳にはなりません」
「イレズミのあるお父さんやお母さんと一緒に来たちびっ子は本当に気の毒です。
楽しみにしていたプールで遊べず帰る姿を見るのはこっちも本当につらいです。お子様のためにもイレズミの方はサマーランドの利用をあきらめてください」

といったように「8年も前から告知しているのだから、刺青やタトゥーがあったら来ても入れない」と、強い口調で訴えていた(ブログは現在削除)。

 これに対して「ツッコミどころ満載」「説明が若干上から目線気味」という声がTwitterなどであがった。しかし同時に「区別は必要」「正論」「よくぞ言った!」などの意見もあった。

 いまやタトゥーは珍しいものではない。レディ・ガガやジャスティン・ビーバー、ジョニー・デップなどのセレブをはじめ、日本でも芸能人から一般の人までが、さまざまな絵や文字を身体に刻んでいる。

 しかしその一方で、イレズミやタトゥーを見る目は依然厳しい。サマーランドだけではなくプールや温泉などでは「イレズミ・タトゥーお断り」がほとんどだし、私の友人カメラマンは両腕にタトゥーを入れていたことから、成田空港で麻薬探知犬に何度もぐるぐるされていた。イレズミやタトゥー=アウトローのイメージが、日本ではまだ根強いようだ。しかし『イレズミと日本人(平凡社新書)』(平凡社)著者で都留文科大学教授の山本芳美さんによると、イレズミは人類にとって、もっとも古い身体装飾なのだそうだ。

「イレズミの起源をよく聞かれますが、それは定かではありません。しかし人類は割礼や纏足、首の伸長など『身体加工』と呼ばれるさまざまな行為をしてきました。イレズミもそのひとつで、人類が出現して以来、人間は身体を加工し続けてきたんです。イレズミと思しき線が入っている土偶や埴輪はいくつも出土していますし、3世紀の文献『魏志倭人伝』にも『男子は大小となく皆面(かお)に黥(いれずみ)し身(からだ)に文(いれずみ)する』とあります。沖縄の宮古では女性が針突(はじち)と呼ばれるイレズミを、手からひじにかけて入れる習慣がありました。これは女性であることや結婚の証としてのもので、通過儀礼の意味合いも持っていました。アイヌの女性も同様に、顔や手にイレズミを入れていました」


◆文明開化がイレズミを隠した

 山本さんによると7世紀中ごろを境に、日本人は「顔や身体を感じさせない美」を重視するようになり、以降17世紀に入る頃まで文献や絵画資料から、日本本土でイレズミに触れるものは見つからなくなってしまった。しかし江戸時代になると鳶や火消し、飛脚など、ふんどし姿になることが多い職業の身体装飾として再びおこなわれるようになった。そして享保時代には、刑罰の意味で額や腕などにイレズミを入れる「黥刑(げいけい)」も生まれた。また当時からイレズミを見せて恐喝する者が現れたため、一般の人たちにイレズミアレルギーも広まったそうだ。

 それが一転、明治に入ると彫師や愛好家の取り締まりが強まり、明治5年からは彫師をすることと彫師の客になることが、法的に規制されるようになった。以降は沖縄やアイヌの女性もイレズミをすると逮捕されたので、イレズミ=違法なものという考えは、この頃に生まれたものだと推測できる。

 そして同時に「イレズミは隠してこそ、精神的にも美しさのうえでも深みを持つ」という考えも生まれていったそうだ。まさに明治以降のイレズミは「秘すれば花」。だから「サマーランドの一件は、その美学に反したふるまいが原因になったのではないか」と、山本さんは分析する。

「私は研究を始めたばかりの頃に、神田周辺で鳶をしている『江戸消防彩粋会』の方々にお話を伺いました。彼らはイレズミがある先代への憧れや、祭りの時に映えるだろうという理由から入れていましたが、多くの人が周囲に『苦労するから』と、入れることを止められたそうです。そこで人前では見せないようにして、温泉やプールは遠慮するなど気を使っていました。このようにイレズミを隠すことは江戸の『粋』でもあり、見せて歩くことは『やぼ』でもあったんです。しかし90年代に入った頃からタトゥーが流行して、『悪いことじゃないから隠さなくていいんじゃない?』という感覚の人が増えました。彼らは言ってみれば、先達が守り続けてきたふるまい方を心得ていない。だからブログで指摘されたのではないかと思います」

 関東弁護士連合会が2014年に6月に全国の男女1000名に実施したアンケートによると、イレズミを入れている人は1.6%で、「入れたいと全く思わない」と答えた人は85.7%だった。またイレズミと聞いて連想するものは55.7%がアウトローで、47.5%が犯罪だったそうだ (複数回答)。しかし山本さんは、イレズミ=ヤクザのイメージはそう古いものではないと語った。では一体、いつごろからそのイメージが定着したのだろうか? 後編でその詳細を紹介する。

【後編】は16日配信

取材・文=今井順梨

最終更新:9/15(木) 6:30

ダ・ヴィンチニュース

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