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アートで食える? 話題の森美術館館長は元銀行マン、わずか1年で転身したワケ

NIKKEI STYLE 9/16(金) 7:00配信

 森美術館館長の南條史生氏は経済からアートの世界へ転身したユニークな経歴の持ち主だ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、いったんは銀行へ就職するものの、1年で辞めて母校へ再入学。そこで当時は珍しかった現代アートを学んだ。「アートでは食えない」と言われながらも、自らの意思を貫いた原点はどこにあったのだろう。
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 「経済」と「アート」。この2つは遠いものだと思われがちですが、じつは密接な関係があります。アートは経済に支えられているという見方がある一方で、経済は文化の下僕であると考える経済人もいます。

 米国の新興企業は、ロビーにはたいてい現代アートを置いています。その企業が斬新で、アイデアに富み、これからどんどん発展する会社であるというメッセージを発信するのに最適だからです。

 純粋に投資対象として考えた場合でも、アートは非常に魅力的な商品です。動産ですから、仮にその国の経済が落ち込んだとしても、景気のいい新興国へ持っていけば、そこに市場がある。資産ポートフォリオを分析する場合でも、欧米の金融機関はアートの価値を重視します。

 にもかかわらず、アートは長い間、社会から遠い存在だと思われてきました。僕も若い頃にはさんざん、「アートなんて勉強しても食えない」と言われた。「アーティストだけにはなるなよ」とも。

■「アートでは食えない」と言われた

 僕が大学を卒業したのは1972年のことです。高度経済成長を終えた日本では、みなが安定を求め始めていました。慶応の経済学部に在籍していましたから、同級生はだいたい銀行か保険会社へ就職していきました。少しリスクを求めるタイプでも、せいぜいが商社。けれど、何かが違うと感じていました。

 僕は子供のころから絵が得意で、本当は芸術家になりたかったんです。しかし、親はしきりに心配して「アーティストになんてなっても食えない」と言う。素直な子でしたから、いったんは「そうか」と思い、芸術の道を諦めて、経済学部へ進学しました。

 新卒で入ったのはある信託銀行でした。記憶にあるのは、1日300万円くらいの現金を毎日のように運んでいたこと。周りを見ても、みなソロバンは僕より速くて正確だし、経済指標もすぐに覚えてしまう。とても太刀打ちできそうにはない、と思いました。

 どう考えても自分はこの仕事に向いていないのではないか。そんな気がして、1年で銀行を辞める決心をしました。

 1年で辞めたのは、その方が会社にも迷惑がかからないだろうと思ったからです。それ以上いると人間関係のしがらみも多くなる。辞めた後は大学に戻り、美術を勉強し直すつもりでした。

 その時、僕が何と言って両親を説得したか。自分ではあまり覚えていないのですが、当時、こんなことを言ったそうです。

 「銀行が安定しているなんて幻想だ。これからどういう時代になるかわからないのだから、安定しているといわれる企業に行くよりも、自分個人の中に何かを蓄積することを選択したい。もう一度、僕の教育に投資をしてくれ」

 あの頃は、みんな「いい会社」に就職しようとして必死だったけれども、僕は入りたい会社を選ぶよりも、自分がどのような人間になりたいかを考える方が重要だと思っていました。能力があれば、それを買おうとする人が出てくるはずですから。

 そんな風に思うようになったのは、学生時代に読んでいた本の影響だったかもしれません。金子光晴の『どくろ杯』や檀一雄の『火宅の人』など、ある意味、“劇薬”のような本を読んでいました。

 絶望的なリアリズムの中で、一人の人間がいかにして生き抜いていくか。戦争が起きたりして、世の中がどんな方向に変わっていったとしても、自分の中に確固とした価値観を持って生きていたら、決して全体主義にはのみ込まれないで済む。

 先のような文学作品を読みながら、いつの間にか、そんな考えが自分の中に育まれていたのだろう、と思います。

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最終更新:9/16(金) 7:00

NIKKEI STYLE

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