ここから本文です

イレズミと性の関係とは? 外国人観光客のタトゥーへの対応はどうすべきか? 【『イレズミと日本人』著者インタビュー 後編】

ダ・ヴィンチニュース 9月16日(金)6時30分配信

 人類にとってもっとも古い身体装飾のひとつであるイレズミだが、現代ではアウトローのイメージが強い。しかし『イレズミと日本人(平凡社新書)』(平凡社)の著者・山本芳美さんによると、イレズミ=ならず者という視点はそう古いものではないそうだ。では一体、いつごろからそう思われるようになったのだろうか?

「江戸から明治の半ばまで、イレズミは町人文化でもありました。『イレズミ=ヤクザ』のイメージが定着してしまったのは、1960年代以降に流行った、任侠映画の影響があると思います。ある時『暴力団関係者のイレズミ率がわかればいいのに』と言われたことがありますが、どうやって調査するんでしょうね(苦笑)。もちろんアウトローで入れている人も多くいると思いますが、今やスーツを着たビジネスマン風の『経済ヤクザ』もいる時代ですから、イレズミのありなしでは判断しきれないと思います」

 同書には市川雷蔵から北野武作品に始まり、実際にイレズミを入れてしまった五社英雄監督のエピソードまで、日本映画とイレズミの関係について詳しく描かれている。そして山本さんは本の中で、「イレズミと性」にも触れている。ロマンポルノや時代物映画では、イレズミが入った女性を官能の象徴としていることも多い。近年でも『花と蛇』の杉本彩や『蛇にピアス』の吉高由里子の彫り物に、目が釘付けになった人もいることだろう。しかし一方で、入れる際の苦痛や恐怖そのものには性的快楽はないと山本さんは語る。

「私が話を聞き取った中では、施術者とイレズミを入れてもらう人が『責めと受け』になっている、なんてことはありませんでした(笑)。施術時間が長いので、痛いのに寝てしまう人もいるぐらいですし。彫師はたいてい男性だし、密室で裸になるのでそういうファンタジーが生まれるのかもしれませんが……。

 割礼や纏足のように、強い痛みを味わってまで肉体を変える文化は、今の日本にはありませんよね。だから痛みを味わうことに対して特殊性を感じるのかもしれませんが、イレズミは入れる過程よりも『出来上がった自分だけのデザイン』が大切なのであって、自傷行為ではないんです」

タトゥーは待ったなしでやってくる

 イレズミを語る上で外せないのは、外国人とタトゥーの関係だ。海外では気軽にタトゥーを施している人が、日本以上に多い。そしてニュージーランドのマオリ族や台湾の先住民族などは、今でも民族の象徴としてのイレズミを続けている。しかし日本では2013年に、北海道恵庭市の温泉でマオリ族女性の入浴を「顔にイレズミがある」という理由で断っている。

 2020年の東京オリンピックに向けて、多くの外国人を日本に呼び込もうとしている一方で、「イレズミ・タトゥーお断り」の施設は未だに珍しくない。ネイマールやメッシなどタトゥーありのアスリートも多くいる中、日本は一体どう対応していくのだろうか?

「日本ではイレズミの歴史はあるのに、学術的研究がほとんどされてきませんでした。だからイレズミに対しての認識や知識量に、とても大きなばらつきがあると思います。しかし外国人観光客と労働力を積極的に受け入れようとする中では、タトゥーがある人たちの社会背景をどう見極めて判断するのか。おそらく心の底では納得できていなかったとしても、世界的にイレズミやタトゥーが流行している状況を理解して、受け入れざるを得なくなっていくのではないでしょうか。現在のように入っている人全員を締め出すことは、今後は難しくなると思います」

「このイレズミは民族の象徴で、これはアウトローの証」といったように個々のイレズミを鑑定できる者などいないから、多くの施設が一律お断りにしてきた。しかしそれではもう、時代に対応しきれなくなりつつあるのかもしれない。げんに一部の旅館では、カバーシールに収まる範囲のイレズミやタトゥーであれば、シールをした上での温泉入浴を許可するなどの動きが始まっている。

 そして山本さんは、タトゥーやイレズミを施す際の衛生基準を統一するなど、施術する側に対しても社会的ルールが必要になってくるのではないかと指摘する。技術を目で覚えたり、師匠から弟子に受け継がれたりしてきたゆえに、彫師はある意味「聖域化」された存在でもあった。しかし誰にでもわかる衛生基準があれば、「自己責任」「容易には消せない」は変わらないまでも、「針で病気になったら」といった恐怖はなくなるのではないか。

「タトゥーマシーンが安価で輸入できる時代なので、衛生基準を『見える化』するなどの対策は必要だと思います。しかし彫師 の協会や学校を作れば解決するとは思いません。そうすると卒業したのだからと、技術もないのに商売を始める人も出てくるかもしれない。また違う問題を生み出してしまうので、組織化すればいいという話でもないんです」

 山本さんは同書を、「ぜひ観光業や旅行業に関わる人に読んでほしい」と語る。もはやタトゥーやイレズミへの知識が浅いままでは、「おもてなし」ができない時代に突入しているからだ。

「ここ数年、ニューヨークやロサンゼルス、パリ、香港、シンガポールなど、世界の大都市に研究のために行きましたが、電車内で目視しただけでも、25パーセントぐらいの人に多かれ少なかれタトゥーが入っていました。彼らにとっては、ファッションスタイルの一つに過ぎないのです。それぐらい流行しているのですから、外国人観光客を温泉やプールの受付でチェックし、ちょっとでもタトゥーが入っていたら『シールで隠してください』と遮るのは、奇異な対応と思われかねません。

 そしてイレズミは人類が誕生して以来営まれていた装いであって、良くも悪くもないもの。タトゥーやイレズミへの規制を強めたところで、社会から消し去ることはできないと思います。だから『おもてなしに携わる人は、本書で世界の状況に刮目せよ』と言いたいですね(笑)」

取材・文=今井順梨

最終更新:9月16日(金)6時30分

ダ・ヴィンチニュース

記事提供社からのご案内(外部サイト)