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肥満や心の病の原因は「細菌」? 「糞便移植」とは? 「細菌」と健康の関係を探る『あなたの体は9割が細菌』

ダ・ヴィンチニュース 9/16(金) 11:00配信

「糞便移植」は、文字通り、他人の便を自分の体内に取り入れる医療行為だ――。

 2006年、35歳のカウンセラー、ペギーはマウイ島で車を運転中に事故に遭遇。ペギーは、何度かの手術を受ける。最後の手術から3日後のこと、ペギーはひどい嘔吐と下痢に襲われる。原因は、健康な状態なら罹患率の低い、悪性の細菌だった。腸内の免疫力が落ちていたことから感染したとみられ、免疫力低下の原因は、手術中の感染症予防の目的で使われた抗生物質が、本来持っていたはずの腸内細菌まで殺してしまったことだと推測された。死が目前に迫った彼女は、ある新しい治療法を行うことを決断する。それが、「糞便移植」。腸内の細菌群の再構成を目指したのだ。結果は良好だった。

『あなたの体は9割が細菌:微生物の生態系が崩れはじめた』(アランナ・コリン:著、矢野 真千子:訳/河出書房新社)は、この「糞便移植」や最新の研究から、人の身体と細菌との関係に迫った、サイエンスレポートとなっている。人体には、様々な細菌が棲息していて、私たちは彼らと共に生きている。その割合は、人体の9割に及び、さらに、腸内に限らず、細菌は身体中の至るところ、適材適所、湿度や食料ごと多種多様に存在していて、私たちの体質や心の状態に影響を与えているという。それぞれの例をひとつずつ見てみよう。

 まずは、肥満だ。こちらは、細菌ではなくウイルスだが、体内に入ると肥満を引き起こす種が実際に存在するという。ある時、大量の脂肪がついたニワトリが集団で死んでいるのが発見された。ウイルス性の感染症だった。このウイルスについて調査を行ったところ、これを体内に棲まわせている人は、ニワトリのように死ぬことはないが、ウイルスを持たない人に比べて肥満のリスクが高まることがわかった。また、スウェーデンの研究チームの調査では、腸内にどのような細菌を棲まわせているかで、太りやすいかそうでないかが決まることもわかっている。ということは、肥満に悩む人に、痩せている人の腸内細菌を「糞便移植」すれば、食事や運動の努力なく、ダイエットが成功するかもしれない。

 次は、心にかかわる例だ。90年代、米コネチカット州でのこと、ある1歳の男の子が、耳の感染症で抗生物質での治療を受けた。現在では考えられないが、30日間、下痢の副作用を無視して薬の投与が続けられた。すると突如、男の子のふるまいが変化してしまう。言葉を話さなくなったり、つま先で歩いたり、目を合わさないようになったりしたのだ。医師は自閉症との診断を下し、母親に二重のショックを与える。当時自閉症は、遺伝や教育が原因とされていたからだ。しかし、母親は根気強く原因を探り、耳の治療で使われた抗生物質に疑いの目を向ける。その結果、男の子は、抗生物質によって腸内細菌が減り免疫力が落ちていたところに、破傷風菌に感染してことがわかった。破傷風菌が産出する神経毒素が、脳に到達していた可能性が見出されたのだ。他にも、腸と脳との関係では、統合失調症などの心の病気で悩む患者群は、そうでない群よりもトキソプラズマ(寄生性原生生物)感染者が多い、といったデータもある。

 こうした例を並べると、身体の中の細菌が、日々人体に有害な細菌と戦ってくれていることが骨の髄までわかる。そうかといって、抗生物質を敵視してはならないとも、著者ははっきり述べている。以前なら死に繫がっていた感染症が、現在では恐るるに足らないものになっているのは、厳然たる事実だからだ。目指すべきは、必要な時には正しく抗生物質を使い、ヒトも細菌も快適に過ごせる身体を作ることだろう。バランスのよい食事や、殺菌剤・抗菌剤を過度に使わない適度な清潔で、細菌たちの住環境を整えてあげようではないか。私の身体は私のものだけではない! と思うと、いつもより自分の身体を大切にできそうだ。

 このように、細菌が私たちのパートナーであることが充分にわかると、冒頭の「糞便移植」も、近い未来には嫌悪感や驚きのない、当たり前の医療行為または体質改善行為として広まっているのかもしれない、と思えてくる。

文=奥みんす

最終更新:9/16(金) 11:00

ダ・ヴィンチニュース

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