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米大統領選を攪乱する「健康問題」という爆弾

東洋経済オンライン 9月16日(金)6時0分配信

 レイバーデー(9月第1週の月曜日)の祝日を過ぎたら、米大統領選挙はいよいよ終盤戦である。競馬で言えば各馬が第4コーナーを回り、「そのまま!」「差せ!」の声が交錯するところだ。

 ところが終盤戦に突入したばかりの9月11日、同時多発テロ事件15周年のセレモニー会場で、ヒラリー・クリントン候補が体調不良で途中退席した。このことが「健康問題」という新たな争点を生み出している。

■一件落着とはならない理由

ヒラリーが会場から立ち去る際の映像が、ユーチューブにアップされている 。両側から支えられて、迎えに来たクルマに乗り込む瞬間によろめいている様子が見て取れる。ところが絶妙なタイミングで、SPがカメラの前をふさいでその姿を隠している。 彼女がクルマで運ばれた先は、ニューヨーク市内にある娘チェルシーのアパートだった。そこで1時間半ほど休んだ後は、再びカメラの前に元気な姿を見せている。翌日、カリフォルニア州での資金集めパーティーに出る予定はキャンセルされた。選対本部の発表によれば、彼女は2日前に「肺炎」と診断され、当日は暑さで脱水状態になったとのこと。ただしこれにて一件落着、とはなりそうにない。

 まず、「9.11」のメモリアル会場から退席した、という事実は重い。日本で言えば、東日本大震災の周年式典のようなものである。まして彼女は、事件当時はニューヨーク州選出の上院議員であったのだから。

もしものことがあった場合…

 容体は相当に悪いのではないか。ヒラリーは2012年に脳血栓で入院したことがある。今回の体調不良は、それとは関係ないのだろうか。などと諸説が入り乱れ、ネット上ではさまざまな憶測が飛び交っている(影武者説まである! )。

 真面目な話、彼女の身にもしものことがあった場合、このタイミングで候補者を交代させることは現実的に可能なのか。1972年の選挙戦では、民主党のジョージ・マクガバン候補の副大統領候補となったトマス・イーグルトンが、うつ病治療中であったことが党大会後に発覚し、サージェント・シュライバーに「差し替え」になった事例がある。

 しかし、大統領候補で同じことができるとは考えにくい。候補者を代える際には、何より党内が「全会一致で」「一瞬で」決めなければならない。強いて言えば、現職のジョー・バイデン副大統領(73歳)と、予備選で最後までクリントン氏を苦しめたバーニー・サンダース上院議員(75歳)に可能性があるだろう。が、いずれも高齢であるし、それで党内をまとまるかと言えば疑問符がつく。「このまま何とか逃げ切ってくれ!」というのが民主党支持者の声であろう。ついでに海外のわれわれとしても、正直なところ「こんなことでトランプ大統領が誕生なんて、勘弁してくれ~!」との思いを禁じえない。

■横綱相撲や安全勝ちは存在しない

クリントン候補とトランプ候補の支持率は、定番のリアル・クリア・ポリティクスを見ると現在3ポイントほどのリードに過ぎない 。だが実際の差はもっと開いている。米大統領選挙は全米の一般投票ではなく、州ごとに獲得する選挙人の数で決まる。そちらで計算すると、クリントン候補はフロリダやオハイオといった激戦州を落としても、十分に半数以上の選挙人を確保する見込みである。バージニア州やコロラド州など、ヒスパニック人口の多い通常の激戦州がごっそり民主党優位に転じているからだ。 しかるに米大統領選挙には、「横綱相撲」や「安全勝ち」は存在しない。11月8日の投票日まで残り2カ月を切ったが、今後は「健康問題」という爆弾が民主党陣営を悩ませることだろう。

 考えてみればヒラリーは68歳(10月26日で69歳)、トランプは6月生まれの70歳だ。仮にこれが中国共産党における次期常務委員の人選であれば、両方とも年齢で足切りされてしまう(内規で68歳定年となっている)。トランプ氏は1946年生まれ、クリントン氏は1947年生まれ、いずれもわが国における「団塊世代」に相当する。どちらが勝っても、69歳で就任したレーガン大統領以来の高齢大統領となる。いや、もちろん1980年代と比べれば、今の高齢者の方がはるかに元気ではあるのだけれど。

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最終更新:9月16日(金)6時0分

東洋経済オンライン

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