ここから本文です

「核保有国」に近づきつつある北朝鮮の思惑

東洋経済オンライン 9月16日(金)6時0分配信

 ここのところ続いている、北朝鮮による核実験やミサイル発射実験は、若くて軽率な指導者、金正恩の挑発的行動によるものだと解釈されがちだ。実際、9月5日には大胆にも中国がホストを務める杭州G20サミットに合わせて弾道ミサイルを3発発射。9日に行った5回目となる核実験は、大統領選中の米国に対して、核兵器を有する強国としての地位を見せ付ける思惑があったようにも見える。

この記事の写真を見る

■韓国とその同盟国の安全保障を脅かす

 しかし、北朝鮮の実験には戦略的かつ軍事的論理がある。短期的なプロパガンダや体制の不安定さを映す行動と受け止めるのは早計だ。実際、北朝鮮の行動は一貫している。一連の実験は、現体制を維持すること、そして、韓国とその同盟国の安全保障を脅かすことを目的に、(目的地に)到達可能な核兵器を保有するという長期的計画に基づいている。

 北朝鮮による実験のペースは、金正恩体制下で著しく加速している。父である金正日が在任中に16発のミサイル発射実験と2回の核実験を実施したのに対して、金正恩はこの4年間で35発ものミサイル発射実験と3回の核実験を行った。しかも今年だけで、初のKN-11潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を成功させたほか、中距離弾道ミサイル「ノドン」の3発同時発射、ソ連のR-27ミサイルの設計から派生した新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」数発を含む、22発のミサイル発射実験を行っているのだ。

 こうして見るとミサイル発射実験の目的は、北朝鮮の核爆弾が、水中および移動型発射が可能であること、また、限られたミサイル防衛システムにも対抗できることを示すことにある。北朝鮮はまた、先制攻撃に対してそれなりに対抗力のある固体燃料ロケットの実験も実施。小型核弾頭搭載ミサイルを1300キロメートルから6000キロメールまで発射できる能力を見せつけた。

核抑止力を手に入れた北朝鮮

 9月9日の核実験は、北朝鮮が通常とは異なる核分裂性の物質を保有し、小型核弾頭開発が可能だと示す意図があった。実際、北朝鮮は同日、「各種の核物質を使用できる確固たる技術と、核弾頭の標準化によって、朝鮮民主主義人民共和国は高い攻撃能力を持つより小型軽量かつ、多様な核弾頭を開発することが可能になる」との声明を新聞に寄せている。

 こうした中、米国や日本、韓国の防衛関係者は、(米国本土を狙えるようになるのはずいぶん先のことだとしても)日本、韓国、西太平洋にある米軍基地が北朝鮮の「射程圏内」にあることを前提として防衛戦略を立てなければならなくなった。

 核抑止力を手に入れたことによって、北朝鮮は、米国と韓国の対応がより制限されたとの前提に基づき、米国などをより攻撃をしやすくなったと考えているだろう。

 米ロスアラモス原子力研究所の前所長のジーグフリード・ベッカー米スタンフォード大教授によると、最大の問題は「北朝鮮に自信を与え、この地域における安全保障力学を劇的に変えたという間違った認識を与えてしまった可能性がある」ことだ。

■半世紀前に企てたミッションが完了

 北朝鮮の軍事力強化には、核抑止力よりもっと不吉な論理的解釈もある。それは、朝鮮半島で再び韓国と戦って、勝利するという解釈だ。

 北朝鮮の指導者は長らく、仮に韓国と戦争になった場合の唯一の障害は、日本に駐留する米軍による介入だと信じてきた。金日成は1965年、ミサイルや現代兵器を開発する研究機関を立ち上げた際、こう述べた。「もし戦争が勃発すれば、米国と日本が介入してくる。それを阻止するには、日本まで到達可能なロケットを開発しなければならない」。

 ミサイルへの核弾頭搭載は、半世紀前に金日成が企てたミッションが完了することを意味する。これが極東アジアの安定と安全保障に与える脅威は極めて明白で、少なくとも20年間にわたってこれを阻止するための外交的努力が繰り返し行われてきた。

 そのひとつが、核及びミサイル開発計画を放棄することと引き替えに、北朝鮮の安全保障体制を確認することだった。しかし、1994年に交渉が行われた核開発の凍結は、その後のミサイル実験凍結とともに、ブッシュ政権下で破棄された。

 交渉を支持する人々はせっかくクリントン政権下で勢いを得た交渉をブッシュ政権の強硬派が台なしにしたと批判したが、一方で北朝鮮が交渉中も秘密裏にウラン濃縮計画を実行し、イランやパキスタンを利用してミサイル実験を行っていた、と見る向きもある。

 その後も、2006年に行われた初の核実験後の交渉や、2012年にオバマ政権が交渉し、さんざんな結果となった「閏日合意」など、核・ミサイル開発凍結に向けた複数の試みが行われたが、ことごとく失敗に終わっている。韓国同様、米国の政策立案者らは、つねに対話にオープンな姿勢を示してきたが、北朝鮮の度重なる行動を理由にその意欲も低下してきている。

 米韓両国で政権交代が起きなければ(つまり11月にトランプが勝利し、その1年後に韓国で革新派候補が勝利しなければ)、この傾向は変わりそうにない。

1/2ページ

最終更新:9月16日(金)6時45分

東洋経済オンライン

東洋経済オンラインの前後の記事

5度目の核実験 北朝鮮を止めるには

5度目の核実験に踏み切った北朝鮮。阻止するすべはないのか、北朝鮮情勢に詳しい専門家やベテラン研究者に聞いた。