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何時間でも思い出に浸れる、90年の放送史を詰め込んだミュージアム - 日本再発見

ニューズウィーク日本版 9/16(金) 11:12配信

<日本で最初のラジオ放送が流れたのは1925年。それから90年間の日本放送史は、日本の公共放送であるNHKの歴史そのものと言ってもいいかもしれない。世界初の放送専門博物館として1956年に開館した「NHK放送博物館」では、歴史的な資料もさることながら、半日でも一日でも過ごせそうなほど豊富な映像アーカイブを存分に楽しめる> (写真:来場者を最初に出迎える巨大タッチパネル「放送歴史絵図」は、90年間の日本放送史を彩る映像を自由に再生できるインタラクティブな展示)

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 東京タワーや虎ノ門ヒルズから程近く、高層ビルに取り囲まれた標高25.7メートルの愛宕山。天然の山としては、東京23区で最も高い場所である。江戸時代には海まで一望できるほど見晴らしがよかったとされ、桜の名所としても有名な都心の景勝地。愛宕神社へ続く「出世の石段」でも知られる。その愛宕山の山頂付近に、NHK放送博物館がある。

 現在、NHK(日本放送協会)の放送拠点である「NHK放送センター」は渋谷へ移っているが、1926年の日本放送協会の発足当初は、この愛宕山にラジオ放送局と高さ45メートルの電波塔が建てられていた。都心からラジオ電波を効率よく遠くへ飛ばすのに、これ以上ない立地だったろう。その跡地に建てられた"世界初の放送専門博物館"は、開館60周年の今年、展示物や内装が全面的にリニューアルされている。

 時代遅れで退屈になっていないかどうか、従来の展示をひとつひとつ見直した今回のリニューアルのコンセプトは「放送の過去・現在・未来」。最新の映像技術を活用し、来館者が新鮮な発見やインタラクティブな体験ができるコーナーを増設したという。

 入館料は無料だが、だからといって期待せずに入ると意表を突かれるかもしれない。豊富に蓄積されたNHKのさまざまな映像資料を視聴できるため、
「懐かしいなぁ」
「この番組、面白かった」
「この人、若い!」
 ......といった会話で家族や友人とも盛り上がれるだろうし、ひとりでじっくり鑑賞することもできる。時間が許せば半日でも一日でも過ごせそうだ。小高い愛宕山のてっぺんまで、あえて足を運ぶだけの魅力が存分に詰め込まれている。

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大迫力の8Kシアターから朝ドラの貴重映像まで

 1階の受付でガイドマップを受け取った来館者を最初に出迎えるのは、「放送歴史絵図」と題された5枚の巨大スクリーンである(冒頭の写真)。画面上のイラストに触れると、関連する動画と音声がポップアップで再生される。

 最も右側のスクリーンでは、ラジオ放送が始まった昭和初期の映像を取り出すことができ、左側へ進むにつれて、時代が新しくなっていく。「人類初の月面着陸」「浅間山荘事件」など、おなじみの映像もあれば、ラジオ放送開始(1925年)やテレビ放送開始(1953年)当時の様子を伝える貴重なアーカイブも楽しめる。

 階段を上がって踊り場を右手へ曲がると、中2階があり、最新技術を駆使した体験型の展示が用意されている。8月1日から始まった8Kスーパーハイビジョンの試験放送が見られる「愛宕山8Kシアター」と、放送体験スタジオだ。

 8K(スーパーハイビジョン)は、現在一般的に普及しているハイビジョン(1920×1080)の16倍もの画素数を誇る規格で、2020年までの普及が期待される次世代型のスーパーハイビジョン技術である。このシアターでは200インチの大型スクリーンに圧倒的画質の8K映像が映し出され、壁面にはスピーカーが鑑賞者を取り囲むように設置されている。5.1chを格段にしのぐ「22.2ch」という、臨場感を究極にまで再現した大迫力のサラウンドを堪能できる。

中2階のもうひとつの見どころが「放送体験スタジオ」。ニュース原稿を読んだり、気象予報の画面を操作したりできるほか、CGと合成されたバーチャル映像に「出演」する気分を味わえる。体験方法を説明してくれるスタッフが常駐している



 そこから2階へ上がると「テレビドラマの世界」コーナー。待ち受けるのは、懐かしい街並みのジオラマセットである。2012年上半期に放映された朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』のタイトルバックで使われたものだ。

 壁面に目を向けると、朝ドラと大河ドラマの歴代ポストカードがびっしりと貼られている。モニターでは年代別でドラマを検索してダイジェスト映像を観ることもできるので、視聴しながら当時の思い出が脳裏に浮かんでくる方も多いのではないか。

 なかでも、不朽の名作と名高い『おしん』は世界各国で放映され、古き良き日本の文化や国民性を海外へ広める役割に大きく貢献したのはご存知の通りである。

歴代の朝の連続テレビ小説(手前)と大河ドラマ(奥)のダイジェスト映像を、それぞれ真ん中のモニターで自由に鑑賞できる。NHKドラマ好きなら、ここだけでかなりの時間を過ごせそう

 その隣に設置してあるのは、大河ドラマの衣装に画面上で自由に着替えられる『バーチャル・フィッティング』である。センサーが利用者の身長や動きなどを自動的に検知して、合成される仮想衣装の大きさも調整されるので、子どもにも大人にも人気のアトラクションだ。

 さらに奥へ進むと、リニューアル前から多くの来館者に根強く支持されている紅白歌合戦コーナーや、「にこにこぷん」や「ひょっこりひょうたん島」など、こども番組の懐かしい人気キャラクターの実物が展示されているエリアもある。

「玉音盤」まである日本放送史コレクション

 ポップな雰囲気の2階に別れを告げて、3階へ上がると、一気に博物館らしいアカデミックな空気が漂う。数多くの貴重な資料や機材が並ぶ「ヒストリーゾーン」である。年季の入ったラジオマイクや受信機、世界初のブラウン管実験の再現、テレビ放送初期の巨大なカメラ機材など、時代の流れを引っ張り、ときに寄り添ってきた放送史の足跡を感じさせる展示物が、通路の両脇で静かに来館者を待ち受ける。

3階「ヒストリーゾーン」内の「テレビの実験時代」コーナー(左側)。放送の主役がラジオからテレビへ急速に移行していく頃の貴重なカメラや受像器が展示されている

 注目すべきは、「戦時下の放送」コーナーに鎮座する「玉音盤」である。ポツダム宣言の受諾を告げる昭和天皇の玉音(終戦詔書の朗読)を収録したレコードの実物で、放送前日の8月14日深夜に宮内庁で収録された。この玉音盤のラジオ放送を阻止しようと、陸軍の一部によるクーデター未遂事件(宮城事件)も起きた。日本の命運に大きなくさびを打ち込んだ円盤を目の当たりにすることができる。



「ヒストリーゾーン」の片隅には、番組アーカイブを自由に検索してダイジェスト映像を鑑賞できる「NHK名作選 デジタルサイネージ」が設置されている。手の動きをセンサーで検知して、画面に触れることなく、過去のNHK番組の検索が可能だ。独特の操作感覚に慣れるまで少々時間がかかるが、豊かに蓄積されたアーカイブ映像を楽しみながら取り出せる。

インタラクティブな「NHK名作選 デジタルサイネージ」は、「ヒストリーゾーン」の比較的目立たない場所にあるので見逃さないように。出演者からも番組検索ができ、2階の「テレビドラマの世界」コーナーと同様、懐かしい思い出にどっぷりと浸れる

3階「ヒストリーゾーン」内の「わが家にテレビがやってきた」コーナー。60年代のお茶の間が再現されており、年代によって懐かさや新鮮みを感じる、昭和の疑似体験空間である

リニューアルで触れてみたくなる展示が増加

 3階には他にも企画展示室などがあるが、この階で博物館は終了――と思いきや、まだ最上階の4階が。ここには、約9600本の番組をモニターで視聴できる「番組公開ライブラリー」(利用時間に制限はあるが、ここはダイジェスト映像ではなく番組を視聴可能)と、放送に関する書籍や放送文化研究所の刊行物などが読める「図書・史料ライブラリー」がある。

 館内を案内してくれた副館長の浜野伸二氏は、「来場者の興味や関心を惹くために『なんだろう感』を重視しました」と、今回のリニューアルの趣旨を説明する。たしかに「これは何だろう?」と、近づいて触れてみたくなる展示が次々に視界に入り、つい時間を忘れてしまう。リニューアル後、それまで多かった年配者に加え、若いカップルやファミリー層、さらには外国人の来場も増えたという。

 リニューアルによって、授乳室やユニバーサルデザインのトイレ設備などが備えられたほか、将来的には、来訪者のスマートフォンに音声案内を直接流すようなサービスをイメージしているなど、誰もが気兼ねなく楽しめる博物館づくりを心がけたいと、浜野副館長は話す。

 NHK放送は、多くの日本人にとって偉大な共通体験のひとつ。家族や友人と、気兼ねなく思い出話に花を咲かせながら、より親交を深めるのに最適な博物館だ。

NHK放送博物館住所:東京都港区愛宕2-1-1開館時間:9時30分~16時30分休館日:月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は翌日)、年末年始入館料:無料TEL:03-5400-6900               http://www.nhk.or.jp/museum/index.html

日本再発見

最終更新:9/16(金) 11:12

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2016-12・ 6号
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北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。