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ギターを練習するってどういうことだ? 第19回<40歳からのハローギター>

幻冬舎plus 9月17日(土)6時0分配信

コミック:たかしま てつを(画家/イラストレーター)
文:納富 廉邦(ライター)

 この曲が弾きたい、と思って、楽譜を入手して、見ながら練習したら弾けるようになる、というのであれば、多分、今ごろ、世の中にギターが弾けない人はいないだろう。そうじゃないから、「ギター弾こうよー、楽しいよー」と誘っても、多くの人が「うーん、興味はあるけどー」と、煮え切らないのだ。「昔、弾こうとしたんだけどねー」と、既に終わったことにしてしまうのだ。

 そりゃ、弾けませんよ。譜面見たら弾けるのは、そのための訓練をしている人だけだ。かなり上手い人だって、いきなりなんて弾けるものではない。譜面見たり、音源聴いたりして、コツコツと練習して弾けるようになっているのだ。そして、1曲だけを集中して練習するなら、時間さえ掛ければ、ほとんどの曲は下手でも下手なりに弾けるようになる。練習さえ積めば。楽器って、特に「音を出す」ということに、それほどの訓練の要らないギターのような楽器の場合、練習の効果は絶大なのだ。

 少年マンガの主人公が、天才か秘めたる力か努力家くらいしかいないのは、何かが出来るようになる、最も安上がりな方法が、それくらいしかないから。そして天才の場合、「ガラスの仮面」の北島マヤのように、その大き過ぎる才能は周囲に迷惑をかけるし(だから「舞台あらし」なんて言われる)、極端に不幸な背景とか、他には何もできないといったマイナス要素を背負わせなければ、読者は感情移入できない。巨匠と言われる映画監督と大女優の間に生まれて、充分な才能と美貌に恵まれた姫川亜弓が、あそこまでの努力をして、ようやく互角と言う、「天才」というのはそういうレベルだから、扱いが難しい。

 秘めたる力は、その点都合がいい。可能性の物語は、いつでも私たちに優しい。実際、ほんの少しなら秘めたる力というのは誰にでもあって、例えば、たかしま君は、ギターを初めて触った時に既に小指が使えたし、比較的たやすくFを鳴らすことができた。これは、ギターを弾いてみなければ自分でも気が付かなかった才能、つまり秘めたる力だ。私だって、別に何の訓練をしたわけでもないけれど、左手で押さえている弦を、特に目で確認することなく、右手で間違えずに弾ける。これは、ギターが弾ける人には当たり前の能力らしいけれど、まあ、一応秘めたる力に代わりはない。

 ただ、秘めたる力は、何と言うか実際には汎用的であり、長田悠幸と町田一八のマンガ「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん」のように、ギタリストが憑依するとかでもなければ、ギターが弾ける力、みたいなニッチな力が発現することはない。最も、音感がとても良ければ、聴こえた音の通りに指を動かすのが難しいことではなく、スイスイとギターが弾けたりするし、実際にそういう人もいるけれど、では、そういう人なら練習しないでも弾けるかと言うとそんなことはなく、1曲を弾けるようになるのに下手な人よりも練習時間が短くて済むという程度のもの。

 つまりは、努力が一番安上がりで、実効性も高いのだ。だから、財力や他の方法がない子供は、努力で全てを手に入れる。努力で幸せになれるかと言うと、それはまた別のものだし、私は「努力は必ず報われる」なんて、全く思っていないけれど、努力は目先の一曲を弾けるようになるくらいには有効だということを知っている。ただ、これも当たり前だが、努力は正しい方向で行わないと意味がない。ギターが弾けるようになりたいのに毎日ランニングしても弾けるようにならない。また、延々と「ドレミファソラシド」を弾いていても、指は動くようになるけど、曲が弾けるかというと、そういうものではないだろう。

 で、歌本やネットでコード譜を見ながら、ジャラジャラと楽しく弾き語りをしていても、好きな曲のギターパートを最初から最後まで弾けるようにはならない。ただ、好きな曲を弾くための準備は、もう出来ている。後は、弾きたい曲の練習をすれば良いのだ。が、弾きたい曲は大体難しい。なので、音を聴いても譜面を見ても分からない。それでも懸命に練習するというのも悪くはないけど、いくら弾こうとしても弾けないとモチベーションが下がりまくる。いくら努力してもダメなものもあるのだ。また、延々と同じ曲を練習するのも飽きる。そこは、気分が変えられるように、三曲くらいを並行して練習する。

 では、どういう曲を選ぶか。ジャンルは、ロックかフォークかブルースから選ぼう。J-POPなんて選んだら、一曲できるようになるのに2年くらいかかるくらい、最近の曲はアレンジが複雑でコードもリズムも難しい。アニソンなんて、ほとんどプログレだ。ジャズやらボサノバやら、そういうカッコ良さげなのも、難しいから後回し。その点、ロックとかフォークとかは、単純であることがジャンルの意義だったりするのだ。しかも、80年代以前の曲を選べば、コードが10個出てくる曲とか、ほぼ無い。

 続いて、メロディがシンプルな曲を選ぶ。が、シンプルといっても、メロディが無いような曲はかえって難しいから避ける。一方で、例えばスチャダラパーのような、シンプルなリフレインの上に言葉を乗せるタイプの、ハウスミュージックとかテクノポップ寄りのラップは、バックトラックは結構綺麗なコード進行だったりするから、候補に入れても良い(注)。ムードだけだから、多分、すぐ弾ける。

 後は、リズムがハッキリしている曲を選ぼう。変拍子とかポリリズムとかは避けて、「ンチャ、ンチャ、ンチャ、ンチャ」とか、「ジャッ、ジャー、ジャッ、ジャー」とか、そういうのが良い。そして、嫌いな曲は避けて、でも別に好きじゃないけど、くらいなら候補に入れる。嫌いでさえなければ、練習してる内に好きになるから大丈夫。

 以上のような条件で、ついでに多くの人が知ってる曲から選ぶと、例えば「スタンド・バイ・ミー」とか、「レット・イット・ビー」とか、「ゲットバック」とか、「雨を見たかい」とか、「ハッピー・トゥゲザー」とか、「ゲット・イット・オン」といった往年の名曲になる。この辺の曲だと、ネット上に音源もコード譜もあるから、結構、コピーは簡単だと思う。ギターソロとかは飛ばしていいし。日本の曲だと、アコースティックギターの弾き語り的な曲ばっかりになるから、ここは洋楽から始めた方が良いと思う。日本だと何かなあ、ジャックスの「堕天使ロック」あたりか。あと甲斐バンドの初期の曲、「裏切りの街角」とか。

 で、コードだけ弾くのではなく、イントロのフレーズとか、キメのフレーズなんかも練習する。例えば、「雨を見たかい」(というとピンと来ないひともいるかも。CCRの「Have You Ever Seen The Rain」のことね)の、サビとメロディの間に入る「ドシッ、ラッ、ソミ」のキメのフレーズとか簡単でお勧め。5弦3フレット、5弦2フレット、5弦開放、6弦3フレット、6弦開放だ。「スタンド・バイ・ミー」をベン・E・キング風と、ジョン・レノン風で弾き分ける練習なんかも楽しいかも知れない。

 音楽というか、ポップミュージックは、気持ちいいメロディラインのバリエーションは、そう沢山はなくて、特に古い曲は、そのあたりの構造がシンプルだから、何曲か弾いていると、だんだん、パターンが身体の中に入ってくる。入ってくると、似たパターンの曲には体が反応して、勝手に指が動いたりするから、練習するごとに楽に弾けるようになるのも楽しい。不思議だけれど、自分でもよく分からないけど、ふと指が正解を弾いてしまうようになったりするから練習は面白いのだ。

 

スチャダラパーの「今夜はブギーバック」だが、ネットとかで、Aメロとラップ部分のバッキングのコードを見ると、C D Em Em、になってるけど、ここは、Fmaj7 E7 Am7 C7の方がカッコいいと思う。で、この進行は椎名林檎の「丸の内サディスティック」のイントロとかサビと同じコード進行なのだ。一石二鳥! 


■コミック:たかしま てつを(画家/イラストレーター)
書籍、雑誌、Web等でイラストや漫画をデジタルで描くかたわら、アナログ作品の展示も不定期に行う。99年ボローニャ国際絵本原画展入選、2005年ほぼ日マンガ大賞、二科展デザイン部イラストレーション部門特選賞。代表作に「ブタフィーヌさん」、「ビッグ・ファット・キャット」シリーズ、「ねこはいじん」など。4コマ漫画「ニワミヤさん」を幻冬舎HPで連載中。
http://www.tt-web.info

■文:納富 廉邦(ライター)
文房具や筆記具に革小物、コーヒーやお茶やお酒や食事、物語、伝統芸能、美術、音楽、映画、カバンやデジタル機器などなど、主に娯楽全般をフィールドに雑誌、書籍、Webなどで執筆、あと講演やラジオ、テレビ出演なども。著作は「大人カバンの中身講座」、「百四十文字小説集(笑)」、「drinkin' cha」「やかんの本」他多数。現在、「夕刊フジ」、「日経トレ ンディネット」、「Pdweb」、「Comforts」、「行動人」、などに連載中。twitterは@notomiで。

最終更新:9月17日(土)6時0分

幻冬舎plus

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