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ヒラリーの健康問題は懸念という衣を纏った女性差別 アメリカのリーダーどう決まる? その25

Japan In-depth 9/17(土) 23:02配信

ウクライナ政府との癒着が問題視されてクビになったポール・マナフォート前選挙事務長に代わり、

現在ドナルド・トランプの選挙活動を仕切っているCEO、スティーブ・バノン(Stephen Bannon)は「ブライトバート・ニュース(Breitbart News)」という、いわゆる「アルト・ライト(オルタナ右翼という日本語訳が散見された)」サイトの会長を務めていた人物だ。

このブライトバート・ニュースや「ドラッジ・レポート(Drudge Report)」といったネットの保守系メデイアといえば、でっち上げやデマゴーグに溢れ、声高に陰謀論を振りかざすトンデモサイトだが、このところしきりにヒラリー・クリントンがパーキンス病だ、てんかん持ちで発作を起こしている、 車椅子がないと移動できない、寝てばかりいるなどと言い募っている。

例えば、“発作”の証拠として挙げられているのは、彼女がいきなり複数のレポーターから大声で質問攻めに遭った時に、頭を振って「そんなにいっぺんに言われてもわからないわよ」とおどけてみせた時のビデオを執拗につなげて流したり、インタビューを受けた時に椅子の背にクッションのようなものが見えているのが座れない「証拠」などと言っているわけである。

実際にクリントンが体調を崩したのは、2012年に風邪が元で脱水症状になり、一瞬気を失って倒れた時に頭を打ったが、後に脳しんとうの後遺症の心配はなかったと医者が発表している。その頃は連日、リビア大使館襲撃事件の公聴会で証言し、疲れがたまっていたのだろう。このテロ事件を当時国務長官だったクリントンになんとか結びつけようと、共和党議員が組織する調査委員回は何度も行われ、昨年の公聴会では数人の議員を一人で11時間もぶっ続けで相手をし、質問にすべて答えた。そんな彼女をしてトランプは「クリントンにはスタミナがない」などと中傷する。

そして先日、9-11同時多発テロ事件の15周年の式典の席でのこと。途中でクリントンが退席、リムジンに乗り込む時に足元がおぼつかなくなる様子が撮影された。最初は暑かったのでのぼせたと発表されたが、実はその2日前に肺炎と診断され、この日もおそらくそれが原因で脱水症状を起こしたのでふらついたことがわかった。

大統領候補が健康体かどうかが取りざたされるようになったのは、80年代のレーガン大統領の頃からで、彼は当時最年長(就任2週間後に70歳)で、任期終了間際はアルツハイマー病の症状が出ていたことがわかっている。だが、フランクリン・ルーズベルトはポリオを患い、車椅子を使っていたし、ジョージ・H・ブッシュが晩餐会で倒れ、当時の宮澤総理の膝に嘔吐したことを覚えている人もいるだろう。

もちろん任期を無事に終えるのが望ましいが、何が起こるかわからないから副大統領候補も同時に選ぶのであって、大統領が完璧にヘルシーな状態であることは必要ではない。

それを問題にするのなら、トランプ陣営も彼の健康状態に関しては、どう見ても老ぼれの消化器専門医が5分で書いたという、間違いだらけで大げさな文体のレターが1通あるだけで、診断書の類は一切公表していない。クリントンは基本的な医師の手紙も発表し、過去に血餅の治療を受けたことも公表している。

なぜ、このように執拗にヒラリー・クリントンの健康問題ばかりが槍玉に上がるのか。これを「懸念」という言葉を借りた女性差別だという指摘がある。「本当に大丈夫なのか?」と問うことは、裏を返せば、暗に、女性は弱い、大統領などという仕事はムリだと言っているわけだ。

肺炎の診断を受けていたのに、たとえ自分の選挙活動は控えても、15年前のテロ事件当時、自分が上院議員を務めていたニューヨークでの式典にはどうしても出席したかった、という彼女の気持ちがわかる、女ってそうやって周りに気を使ってムリしちゃうのよ、という声が女性有権者から上がっている。トランプが珍しく、倒れたクリントンを揶揄する発言をしていないのはこのためだ。

大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)

最終更新:9/17(土) 23:02

Japan In-depth