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愛とお金の人間喜劇! 映画「後妻業の女」

プレジデント 9月17日(土)6時15分配信

■京都連続不審死事件を予言していた

 「わたし、あんた看取ったるわ」「爺を騙すんは功徳や、ええ夢見られるんやからな」――。

 この夏公開された映画「後妻業の女」の主人公・武内小夜子と、彼女と結託する結婚相談所の所長・柏木亨のセリフだ。妻に先立たれた資産家の老人の後妻に入る。そこで巧みに公正証書遺言を作らせ、みずからの手で死を早めて財産を根こそぎ奪う。

映画「後妻業の女」公式サイト

 小夜子を演じるのは、大竹しのぶ。柏木役は豊川悦司だが、この2人の関西弁でのやりとりが小気味いい。まるで、悪女と悪党の上方漫才のようだ。「愛の流刑地」などで知られる鶴橋康夫監督の脚本は、作家・黒川博行氏の原作『後妻業』をおおむね踏襲している。だから、ややもすれば陰湿な話になりがちなシーンを、そのかけ合いによって笑いさえ誘い、社会問題を扱っているにもかかわらず喜劇性もあわせ持つ。

 2年前、黒川氏の小説が話題になったのは、その内容と酷似した事件が京都で発覚したことによる。本の発売から2カ月半ほど経った11月19日、京都府警は夫に青酸化合物を飲ませて殺害したとして筧千佐子(当時67歳)を逮捕。彼女には過去3回の結婚歴と何人かの男性との交際歴があり、相手は不審死を含めて全員が死亡している。小説はまるで、この京都連続不審死事件を予言していたかのようだった。

 筧は“平成の毒婦”とも呼ばれ、逮捕後の動静も逐次、新聞紙面などで伝えられていただけに、映画化は必然の流れだったのかもしれない。映画パンフレットに掲載された鶴橋監督のインタビューによれば「原作の冒頭で、関西弁で電話を受け取っている柏木のセリフを読んで、これは豊川悦司さんだとすぐさま思い、彼の名前を書き込みました。そして柏木と電話で話している女・小夜子は大竹しのぶさんというイメージがすぐに浮かんだんですよ」と話している。

■「映画の中の小夜子は可愛げがある」

 それにしても、小夜子になりきったかのような大竹の熱演はすごい。おのれの欲望をむき出しにして、周囲を威圧する言動は小憎らしいばかりだ。なかでも、被害者・津川雅彦が扮する元女子短大教授の娘役である尾野真千子との焼肉屋での罵り合い、掴み合いの場面は鬼気迫るものがある。一方で、ふとしたきっかけで見せる初老の女の孤独と不安の表情もさすがといっていい。

 同じパンフレットで黒川氏も、完成した映画における大竹の印象を問われて「映画の中の小夜子は、男を騙して、愛情を偽って金をせしめる女ですが、魅力的な一面もあるんです。可愛げがあるというかね。表現力の豊かな大竹さんに演じてもらって、小夜子のイメージが、より鮮明になったような気がしています」と答えている。

 その黒川氏に後妻業について話を聞いたとき「似たような事件はたくさんあるでしょう。千佐子にしてもそうだが、70、80を過ぎた爺さんに50代、60代の女が積極的に近づいて来たら、それはもう金目当てしかない。たとえ、それに気づいても『はい、はい』と何でも聞いてしまう緩さが男には体質としてあります」と指摘していた。

 ところが映画のラスト、小夜子に操られっぱなしだったような津川が、公正証書遺言より後の日付で、娘たちに土地と家を遺そうとしていた。それはどこかで、自分の最晩年に彩りを与えてくれた小夜子の底知れない怖さを感じ取っていたからに違いない。やるせないなかにも、どこか救いのある終わり方になっている。

ジャーナリスト 岡村繁雄=文

最終更新:9月17日(土)6時15分

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