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直木賞作家・葉室麟が明かす、ある新聞記者の「仕事の流儀」 本当の意味での対話とは

現代ビジネス 9月17日(土)13時1分配信

対話によって編まれた歴史

 毎日新聞西部本社学芸部デスクの矢部明洋氏から、「歴史を語る対談をやりましょう」と誘われたのは、いつのことだったか忘れてしまった。

 いつものように博多でお酒を飲みながらの話だったかもしれない。いや、お酒を飲んだのはすでに始まった対談の後だったか。

 いずれにしても口の周りからあごにかけて髭で覆われたダルマのような矢部氏と古代から平安、鎌倉、戦国、江戸、明治時代へと歴史について、月一度、語り合い、夜は中洲へというパターンができあがった。

 わたしもそうなのだが、矢部氏もひとが集まるのが好きで対談後の会食はふたり以外に毎日の記者や地元出版社の編集者、さらに書店員さんまでゲストがいて、対談の延長戦で語り合った。

 酒が入っての放談はしかたがないのだけれど、その前の対談でも、わたしは思いつくままにしゃべり、果たしてこれでいいのだろうか、と思っていた。

 だが、紙面になってみると、思いのほかちゃんとしている。論旨が明快だし、整合性がある。対談後に飲酒して記憶がシャッフルされているので、「なんだ、案外、大丈夫じゃないか」とほっとした。

 しかし、さすがに何回も対談を重ねていくうちに、紙面で展開されているのは、わたしの話した内容を素材に矢部氏が再構成した「論」なのだということがわかってきた。

 もちろん、話した以外の言葉がつけくわえられているわけではない。ただ、微妙な言葉の省略といくつかある表現のうちからの選択が、矢部氏の考える「論」に組み込まれている。

 だから、冗漫で放埒なしゃべりが整理され、ひとつの主張となっているのだ。

 念のために申し上げると、これは矢部氏が自分の考えに合わせて、わたしの話を構成したという意味ではない。

 わたしの口から出る雑駁な言葉の意味を考え、さらにその底にある主張にまで思いをいたして、理解し、共感できる部分をすくいあげていった作業だと思う。それは、単なる対談ではなく、本当の意味での、わたしと矢部氏の、

 ――対話

 だったのではないか。

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最終更新:9月17日(土)13時1分

現代ビジネス

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