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「NewsPicks」擁するユーザベース社、IPO決定も残る課題

HARBOR BUSINESS Online 9月17日(土)9時10分配信

 企業情報サービス「SPEEDA」と、経済情報メディア「NewsPicks」を手がける「ユーザベース社」が東証マザーズに上場することとなった。

⇒【資料】「SPEEDA」「NewsPicks」売上と利益

 筆者は2年前にNewsPicksでインターンし、社長の梅田氏に取材したこともあるから今回の上場は感慨深い。ただ、馴れ合うことなく忌憚のない分析で同社の将来性を論じていきたい。上場にあたって企業が出す「目論見書」を読むといくつか、納得のいかない数字が散見された。

◆事業は「SPEEDA」と「NewsPicks」の2本柱

 同社の事業は’15年期の年間売上約13億のSPEEDAと、約3億円のNewsPicksだ。

 現在、会社全体の売上を支えているSPEEDAは、企業分析に必須のツールである。上場企業の有報など公開情報はもちろんM&A情報、未上場企業や海外企業についても豊富に取り揃えている。業界ごとに専門のアナリストも雇っていてオリジナルのレポートも充実している。素晴らしいのは情報量だけでなく、ユーザビリティも競合サービスと一線を画している。とにかく情報を集めやすいし、グラフの作成などがワンタッチで行える。

 これを金融機関やコンサルファーム、事業会社の経営企画室向けに1ID12万円、1社あたり最低3IDから売っている。

 ユーザベースは’14年期までは赤字だったが、’15年期は営業赤字なものの特別利益の計上で純利益は黒字。最新の’16年第二四半期は営業利益も出せるようになった。SPEEDAが利益をだし、NewsPicksの赤字を補ったためだ。

 SPEEDAは、綺麗に加速度的に成長している。

 ここ2年で海外顧客の獲得も増え始めた。むしろ、これでも昨期まで赤字だったのはなぜか。ユーザベースはITベンチャーにしては原価率が高い。SPEEDAのコンテンツを充実させるため、外部から企業情報を購入しているためだ。

◆高性能すぎた「SPEEDA」の弱点

 動画配信サービスの「Netflix」あたりもそうだが、全体のコンテンツに占めるオリジナルコンテンツの割合はまだまだ低く、値が張るのに耐えながら外部と契約を結ぶしかない。

 SPEEDAはもともと「ブルームバーグ」や「ロイター」など既存サービスをひっくり返すために作られ、国内にも「日経Quick」など手強い競合がいる。差別化のためには、お金をかけてでもSPEEDAでしか得られない情報を持っておく必要がある。

 この問題の解決のためにはオリジナルコンテンツの拡充が必至だが、簡単ではない。優秀なアナリストを雇うコストは非常に高い。目論見書によればユーザベースの平均年収は590万円だが、外資系証券のアナリストの年収は30歳で1千万円を越す。

 ただ、代わりに金融業界は常にスーツ着用で堅苦しく、成果にシビアでストレスフルな職場だ。特に外資系はそれに加えて、年次が若い間はまるで奴隷のように過酷に働かされると言う。ユーザベースはそうした金融業界に嫌気がさした出身者が経営していることもあり、非常に自由主義な会社であることを経営理念から打ち出し、実行に移している。

 社員はフレンドリーでみな仲が良く、頻繁にバーベキューなどのイベントがある。服装も基本的には自由だ。年収の以外の部分に魅力を感じてユーザベースのような会社でやりがいを持って働きたい金融マンは一定数いるはずだ。

 ただし、そういう人は金融業界の多数派ではないからやはり安定してたくさん獲るのは難しい。

 SPEEDAにはもう1つ懸念があり、それはアップサイドが低いことだ。

 SPEEDAは高機能すぎて、多くの企業にとっては持て余すものだ。すでに有力な金融機関やコンサルファームには全て導入済みで事業会社や大学等の研究機関にも手を広げているが、どこまで導入余地が残っているかは疑問だ。そこで重要なのが海外展開であり、同社は3年前には早くも着手していた。

 シンガポールや香港、上海に子会社を作りアジア展開を進めているが、現地では欧米サービスの認知度が高く、現地企業もある。コンテンツ力で圧倒的に差をつける必要があるが、拡充にはお金がかかるという問題に戻る。儲けと相殺するぐらいのコンテンツ投資をして少しずつ強くしていくしかないだろう。基本的には資本力勝負であり、既存大手が有利な戦いとなる。

 もう1つの事業であるNewsPicksは、一風変わった経済ニュースアプリだ。外部の経済記事をユーザ自身が集めて、コメントをつけてピックする。編集部でオリジナルな記事も作っている。普通の雑誌や新聞のようにこちらは月額1500円課金制だ。課金をすると、記事の検索が可能になったり、ユーザベース主催のイベントに優先的に招待されるなどの特典がつく。

 同サービスはわずか3年弱で会員数が140万人が突破するなど急成長を遂げている。会員数の1%以上に当たる19000人が有料課金を行っているのも特徴で、月額1500円と高単価な分、かなりの収入が得られている。ニュースアプリ最大手の「Gunosy」は1000万以上DLと1桁多いが、収入は全て広告関連であり、NewsPicksは他サービスと徹底的な差別化に成功していることがわかる。

 懸念は、DAU(1日のアクティブユーザー)率の低下だ。

◆好調の経済ニュースアプリ「NewsPicks」の弱点

 毎日1度は使うユーザーがサービス開始直後は20%近くいたのが、現在では10%前後と半減している。これは他のニュースアプリと比べてもかなり低い数字と見られる。

 実はアプリのダウンロード数自体を増やすのは難しくない。最近では「AbemaTV」のダウンロード数が瞬く間に数百万に達して騒がれたが、あれだけ広告を打ち、テレビでも宣伝していれば誰だってダウンロード自体は無料だからする。Gunosyも調達した資金を全て広告宣伝費にそそぎ込みテレビCMを流し続けて一気にユーザーを増やしたことがあった。肝心なのはアプリが消されずその後も使い続けられるかで、だからDAUは重要なのだ。

 有料会員が増えているとはいえこれが低下しているのは気がかりだ。

 コンテンツ面では、発足当初はベンチャー関連の記事が多かったが、ここ1年は認知度も上がったためか、大企業の経営者や大物政治家へのインタビューも増えた。これが逆に、NewsPicksが「普通の経済メディア」となって東洋経済やダイヤモンドなど他誌と差別化できなくなる要因にならないか不安である。ただ、リクルートとNetflix関連の特集やホリエモンこと堀江貴文氏を中心に据えたインタビュー企画の量は他の追随を許さず、同誌の特徴となっている。

 NewsPicksは’16年初頭には黒字化の予定だったが、残念ながら’16年6月時点でもまだわずかに赤字である。しかしながら、昨年と比べて損失が10分の1になっており、遠からず黒字化し、安定したそれなりの収益をうむことが見込まれる。

 ただ、このNewsPicksは、実は昨年ユーザベースから分社化した子会社のニューズピックスが運営している。オフィスも同じで、SPEEDA事業の人材との交流も活発であり、連結対象だから結局業績の開示は同じようにするので何故わざわざ会社を分けたのか疑問だった。

 その答えは、「第三者割当増資による持分変動利益」にあった。平たく言えば、ニューズピックス社は外部からの資金調達によってお金を増やし、そのニューズピックスの株式を持つユーザベース社が会計上の利益を得た。これによって’15年期に4.4億円もの特別利益が発生し、3.3億円の営業赤字だったユーザベース社は最終黒字になった。

 早期の上場のために何としても黒字化が必要で、そのため適法の範囲でかなりアグレッシブな会計操作を行ったとも言える。同社はこの第三者割当増資に関してはプレスリリースを出していないが、何のためにどこから資金調達したのか知りたいところだ。

 そもそもユーザベース社は何のために上場するのか。前述の通り今後しばらく利益の全てをSPEEDAのコンテンツ拡充につぎ込むべきフェーズであり、株主からの利益増要求に向き合う必要がある上場には向いていない。目論見書によれば

1.人材確保

2.システム開発に係る業務委託費

3.広告宣伝費

 が調達資金の使い途らしい。だとするならば、ユーザベース社は総資産の7割に当たる12.7億円もの現金を持っているのだからまずはそれを使えばいい。宣伝費についていえば、そもそもSPEEDAはテレビ広告に合わないサービスなので疑問に思える。

 上場が決まると、その企業の経営者に「おめでとうございます」と言うのが通例である。上場は確かにめでたいことで、特に株式を保有する関係者各位にとっては一気に資産が増える大事だが、新規の株主への責任も生じる。

 最近のベンチャー企業は、脆弱なビジネスモデルのまま証券会社と組んで無理やり上場し、関係者だけが利益を得てその後会社の価値が下がる一方の所謂「上場ゴール」に走ることも多い。

 ユーザベース社の上場は、意義がありかつ今後の株主を幸せにするものであってほしい。

【決算書で読み解く、ビジネスニュースの深層】

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok

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最終更新:9月18日(日)2時56分

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