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映画「怒り」には、原作者の吉田修一も驚いた

東洋経済オンライン 9月17日(土)6時0分配信

 日本アカデミー賞をはじめ、その年の国内の映画賞を総ナメにした『悪人』から6年。9月17日より全国公開されている映画『怒り』で、『悪人』と同じ、吉田修一原作×李相日監督のタッグが再び実現した。

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 ある夏の日、八王子で起こった夫婦殺人事件の現場には「怒」の血文字が残されていた。犯人は逃亡し、顔を整形してどこかに身を隠しているという。そんな痛ましい事件から一年の時を経て、千葉と東京と沖縄に、素性がわからない3人の男が現れる。愛した人は、殺人犯なのか――。心の中に疑惑がふくらみながらも、愛する人を信じることができるのか。そんな問いかけを投げかけるヒューマンミステリーに、渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野 剛、広瀬すず、宮﨑あおい、妻夫木聡という豪華キャストが集結した。

 重厚な人間ドラマを生み出した原作者の吉田修一氏の作品への思いと、映画化された自分の作品をどう観たのかを聞いた。

■『悪人』の方が良かったと言われたくない

 ――今回の映画をご覧になっていかがでしたか。

 圧倒されましたね。原作は上下巻で、いろいろなものが詰まった長い話だが、それをぎゅっと凝縮していただいた。映画の上映時間が2時間ちょっと、本当に息継ぎなしで観せられたような気分です。いろいろな意味で圧倒されたというのが最初の感想でしたね。

 ――プロデューサーの川村元気さんや李相日監督、俳優の妻夫木聡さんたち、チーム『悪人』ともいうべき人たちへの信頼感も大きいのでは? 

 信頼はもちろんありましたね。ただ、信頼している分だけ、逆にハードルが高くなってしまいます。やはり『悪人』のチームが再び集結、ということになったからには、「『悪人』の方が良かった」とは言われたくないわけですから。当然、自分たちのハードルが上がることはみんな理解していたと思います。

作品には作れるタイミングがある

 ――李監督と組む作品を探していたという面もあるのでしょうか。

 小説も「では、これを書いてください」と言われて書けるものじゃない。その時に書けるものは限られている。おそらく『怒り』を書いた時は「怒り」しか書けなかったと思います。それはきっと李さんも一緒で、撮影は去年でしたが、そのタイミングで撮りたいものが『怒り』しかなかったんだと思います。そしてそれはきっと川村さんもそうだったと思います。

 ――「これをやらねば」という波長がピッタリ合ったと。

 そう。タイミングというか、運命的なものもあるだろうし、たまたまそれが『怒り』だったのだと思います。それプラスして、妻夫木さんというお忙しい方が、たまたま出られるようになったということも大きかった。

■『怒り』の映像化は『悪人』の10倍難しい

 ――『怒り』の小説を書きあげた時に、李監督に原稿を送って。帯のコメントをお願いしたと聞きました。やはりこの『怒り』という作品に関しては、何かしらの予感があったということではないでしょうか。

 予感はなくはなかったですね。内容は違うにしても、『怒り』という作品を書きあげた時に、自分の中で『悪人』と通じるものがあったのでしょう。この『怒り』は李さんがどういう風に読むのか、ということはすごく気になっていましたし、いち早く読んでもらって、感想を聞きたかった。それが最初の強い思いでしたね。

――『悪人』では吉田さんと李監督が一緒に脚本を書いていましたが、今回は李監督にお任せしたそうですね。そこは信頼関係があるからこそのことなのでしょうか。

 もちろんそうした信頼もありますが、『悪人』に比べて『怒り』の方が映像にするのは10倍くらい難しい、ということがあります。これを脚本にするためには、映画のプロの手じゃないと難しいだろうなと思った。演出しながら脚本を書かないと成立しないということを直感で気付いたということです。だから最初から「僕はできません。今回は勘弁してください」と言ったんです。

 ――台本のチェックはされたんですか。

 チェックなんてしないですよ。出来上がった脚本を読ませてくださいと言っただけで。つまり、チェックというよりは、単純に「読みたい」と。

 ――ひとりの読者として? 

 はい(笑)。読ませてもらって、感想は伝えました。それはチェックやダメ出しということではなく、僕はこういう風に読みました、ということを伝えたかったんです。

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最終更新:9月17日(土)6時0分

東洋経済オンライン

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