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「老人に押し潰される」日本の医療に迫る危機

東洋経済オンライン 9月17日(土)6時0分配信

■世界一の高齢社会ニッポン

 日中や深夜にテレビをつけると、高齢者向けの健康情報番組が氾濫し、「飲んではいけない薬」「やってはいけない手術」といった医療特集記事が週刊誌の誌面をにぎわせている。毎週のように特集が組まれているところをみると、そうした週刊誌の売れ行きは好調なのだろう。いかにも世界一の高齢社会ニッポンを象徴するような光景である。

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 しかし、医療技術がいくら進歩し、健康寿命がどれほど延びたとしても、人はいずれ老い、死に至る。革新的なバイオテクノロジー技術によって「不老不死」「不老長寿」がいずれは実現可能だと喧伝する向きもあるが、幻想だろう。高齢者の「長生き欲望」を過剰にあおっている意味では有害ですらある。

 世界一の長寿を達成した日本にいま必要なのは、とどまるところを知らない高齢者の長寿・健康志向を適切にコントロールすること、そして、高齢者に軽く、若者世代に重くなっている世代間負担の公平化を図るギアチェンジだ。

週刊東洋経済は9月17日発売号で『納得のいく死に方 医者との付き合い方』を特集した。日本はこれから本格的な多死社会を迎える。厚生労働省の推計によると、2014年に1592万人、全人口に占める割合が13%だった75歳以上の高齢者は、2025年に2179万人、同18%、2060年には2336万人、同27%に急増する。 実に「4人に1人が75歳以上」という、人類未到の超々高齢社会がやってくる。多くの高齢者が死亡する時代はすぐそこまできている。

1人あたり医療費はどれぐらなのか

 日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えたが、その多くは70歳を超えたあたりから、がんや心疾患などを原因として亡くなっていくという。政府は健康寿命の延伸に躍起になっているが、現状では「不健康寿命」(平均寿命と健康寿命の差)は10年程度あり、しかも平均寿命が延びるとともに不健康寿命も長くなっている。つまり、どんなに医療技術が進歩しても人は必ず死に、死ぬ前の10年程度は不健康な時期を経て、そのために莫大な医療費、医療資源を使っているのだ。

 1人あたり医療費でみると、80歳以上のお年寄りは年間90万~120万円の医療費がかかっているのに対し、30~50代の働き盛りは10万~20万円程度。このように、高齢者の医療を支えるのに莫大なコストがかかっており、しかも、その負担は公平かつ十分ではない。残念なことに、そのことが世間一般であまりよく知られていない。冒頭のような高齢者の長寿志向や健康欲ばかりが野放図に広がり、日本の医療制度は高齢者のための医療でパンク寸前になっている。

 高齢者の医療費が膨らむのは、ある意味当たり前の部分もある。人は年をとればとるほど1つ2つの病気を抱えるのは普通になり、若者と比べて心身が脆弱で、医療費がかかるのは当然だからだ。しかし、その費用の負担ははたして公正だろうか。また、医療が過剰になりすぎている部分はないのだろうか。

 2008年には75歳以上の高齢者を対象とした「後期高齢者医療制度」が創設された。75歳以上の医療費は2016年度の予算ベースで16.3兆円。年間約40兆円の医療費の、実に4割を占める。

 16兆円の約4割、6.3兆円は現役世代からの支援金であり、約5割、7.1兆円は公費でまかなわれている。支援金は健康保険組合や市町村国民健康保険を通じて現役世代が負担している。公費は、税金だけでなく赤字国債を含む。つまり、将来世代の負う借金でまかなっている。高齢者の負担は約1割に過ぎず、年金などの収入しかないお年寄りが多いとはいえ、世代間の負担が公平か、疑問が残る。

■過剰医療の指摘も

 過剰医療の指摘もある。複数の診療所から10種20種もの薬を受け取り、飲み残しや多剤処方が問題になっている。高齢者にがん検診を受けさせると、本当はがんではないのにがんと診断されたり、無駄な手術や抗がん剤の投与を受ける過剰診断をされたりする危険性をもたらしうる。救命救急センターは、高齢者の安易な利用で肝心の若者の利用に障害をもたらしかねない状況だ。高齢者医療を取り巻く課題は山積している。

 一方で、明るいニュースもないわけではない。最近、医療制度の持続可能性を憂え、良識ある、鋭敏な一部の医師たちが「貴重な医療資源は高齢者ではなく若い人に振り向けよ」と、異口同音に声を上げ始めた。

 これらは一部とはいえ、医師会を中心にかつては「医療費を削れば医療が崩壊する」一辺倒だったことからすると、実に大きな変化だ。内心はおかしいと思っている「声なき声」も含め、それだけ医療現場の危機感も強まっている。

山田 徹也

最終更新:9月17日(土)6時0分

東洋経済オンライン

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