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個人投資家は「日銀が歪めた市場」から逃げた

東洋経済オンライン 9月17日(土)4時0分配信

 「1日当たりの平均売買代金がアベノミクス前の水準まで逆戻りしてしまった」――。ネット証券会社の多くの幹部はそう言って頭を抱える。

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 例年、材料不足で商いが低調になりがちな8月の株式市場。だが、今年の“夏枯れ”はこれまでにない不穏な空気をはらんでいた。

 8月の東京証券取引所と名古屋証券取引所合計の1日当たり平均売買代金は2兆4628億円。前年同月比で29.7%減、前月比でも13.0の減少となった。

■個人投資家の売買代金が落ち込む

 特に落ち込みが激しかったのが個人投資家だ。日本取引所グループがまとめた投資部門別株式売買状況によると、前年同月比で41.7%減、前月比で26.9%の急減だった。委託売買代金全体に占める割合も月平均で19.9%と低迷。昨夏のチャイナショック直後と同水準まで落ち込んだ。

 こうした状況は、個人投資家を主顧客とするネット証券会社を直撃。1日当たり平均売買代金は、楽天証券の前月比27.9%減を筆頭に、軒並み2割前後の大幅減となった。

 なぜ8月に売買代金がここまで急落したのか。

 風向きが変わり始めたのは今年1月だった。日本銀行がマイナス金利政策を導入したことで、高利回り銘柄として個人投資家に人気だったメガバンク株が値下がりした。多くの含み損を抱えた個人投資家たちは売買額を減らしていった。

 ただ、英国のEU(欧州連合)離脱決定やポケモンGOブームの影響で6~7月は株式市場のボラティリティが高まり、それなりに売買が成立した。

 こうして迎えた8月だったが、ポケモンGOブームは前月で一巡。一転して手掛かり難となった。そこに思わぬ事態が生じる。日銀によるETF(上場投資信託)買い入れ枠の増額だ。

なぜ個人投資家は去ったのか

 金融緩和策の一環として、日銀は2010年12月に年間1兆円のETF買い入れを開始。その後、量的・質的金融緩和の拡大に伴い、2014年11月に年間買い入れ枠を3兆円に増額した。さらに今年7月には同枠を5兆7000億円へ再増額。8月に入ると、1日当たりの買い入れ額を従来の300億円台から700億円台へと大幅に引き上げた。

 日銀はTOPIXの午前終値の下落率を判断材料にして、午後にETFを買い入れるか決めているとみられる。一方、個人投資家はファンダメンタルズ(経済活動の基礎的要因)を分析し、狙っている銘柄の株価が下がりきったと判断した局面で株を買うのが一般的な投資行動だ。

 「企業業績や景気の先行き不透明感から上値が限定的な中、株価が下がると日銀が買い支える。個人の買い場がなくなっている」(楽天証券経済研究所の土信田雅之シニアマーケットアナリスト)

■外国人投資家も逃げ出すおそれ

 ファンダメンタルズと乖離した投資行動は、これだけにとどまらない。日銀は通常のETF購入とは別に、2015年12月から「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」を対象として、年間3000億円のETF買い入れ枠を設定している。また、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資(環境や企業統治など非財務的要素に基づいて投資する手法)を本格化させる動きを進めている。

 マネックス証券の福島理営業本部部長は「個人投資家はファンダメンタルズ以外の要素で動く運用に困惑している。1口座当たりの売買が小口化しており、おっかなびっくり売買しているのがうかがえる」と指摘する。

 「債券市場のように、日銀の動向次第という状況になれば、弊害は大きい。外国人投資家が日本を避ける可能性も出てくる」と危惧するのは、松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストだ。市場の価格形成機能を無視した相場介入が長引けば、株式市場を衰弱死させかねない。

猪澤 顕明

最終更新:9月17日(土)6時20分

東洋経済オンライン

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