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巨泉さんの闘病は「治療すると確実に寿命が縮まる」ことを教えてくれる<がんと診断されても信じるな>

幻冬舎plus 9月18日(日)6時0分配信

近藤 誠

 さて緩和ケアをうけるため自宅へ戻られてからも、巨泉さんの災難はつづきます。

 まず、在宅ケア医にデリカシーがない。初対面の巨泉さんにいきなり、「大橋さん、どこで死にたいですか?」と訊いたというのです。

 そして、その医者に処方された鎮痛剤がきっかけとなって、巨泉さんの意識は薄れ、がんセンターの集中治療室へ緊急入院。結局そこから出られぬまま、逝去されました。

 がんセンターの主治医は奥様に、前述のように「死因は“急性呼吸不全”」「その原因には、中咽頭がん以来の手術や放射線などの影響も含まれる」と説明しましたが、「最後にうけたモルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与による影響も大きい」とも述べました。奥様が「痛み止めの誤投与がなければと、許せない気持ちです」と語るのは当然でしょう。

 ただ、モルヒネ系の鎮痛剤は一般に、飲み薬として使用している分には安全です。もし過剰に処方されたら、気持ちが悪くなったりして、とても飲めるものではないのです。

 ところが注射や貼り薬のかたちで用いると、自動的に体内に入っていくので、しばしば過剰状態になります。

 ことに、がん治療の後遺症で“潜在的な呼吸不全状態”にあると、呼吸筋を働かせる指令をだしている脳細胞がモルヒネによって抑制され、呼吸筋が働かなくなるため呼吸量が減ります。そして、からだの中に炭酸ガスがたまり、意識が低下し、死にいたるのです。この間、患者さんには苦しみはなく、一種の安楽死ではあるのですが、それを予期していない家族にとってみれば、「殺された」となるのです。

 巨泉さんの場合も、在宅ケア医の処方の中に“貼り薬”があったと言います。そのため、鎮痛剤がどんどん吸収されて過剰状態になり、呼吸を抑制し、急性呼吸不全を招いたのでしょう。

 巨泉さんの闘病経過は、いろいろなことを教えてくれます。

 ひとつあげるなら、転移や新たながんが発見されるたびに治療していたら、確実に寿命が縮まる、ということでしょう。

 “がん死”はほとんどの場合、“治療死”の別称なのです。

 ※第30回からは「肺がん」について。9月25日(日)公開予定です。


■近藤 誠
1948年東京都生まれ。73年、慶應義塾大学を卒業。76年、同医学部放射線科に入局。79~80年、米国留学。83年より2014年まで同医学部講師。12年、「乳房温存療法のパイオニアとして、抗がん剤の毒性、拡大手術の危険性など、がん治療における先駆的な意見を、一般人にもわかりやすく発表し、啓蒙を続けてきた功績」によって「第60回菊池寛賞」受賞。現在は東京・渋谷の「近藤誠セカンドオピニオン外来」【http://www.kondo-makoto.com/】で年間2000組以上の相談に応えている。

最終更新:9月18日(日)6時0分

幻冬舎plus

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