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「嫌な奴だから嫌い」は、あなたの錯覚<マインドフルネスな日々>

幻冬舎plus 9月18日(日)6時0分配信

小池 龍之介

 どんなに嫌なことをする人間がいたとしても、それはその人の自由な意志によってそうしているわけではなく、過去からの因果律によって、否応なくそうせざるを得なくなっている。そんな話を前回、いたしましたね。

 たとえば私の身近に、ちょっとしたことですぐ怒る人がいて、その方のパートナーや家族に、脅威を与えています。

 そういう人に対して、「何でこの程度のことで怒るんだ!」と不快になるのは簡単です。「そんなに怒ったら他の人がどんな気持ちになるのか、想像力が足りないんだ」などと言いがちなものですが、ちょっと待ってください。そのようなことを安易に言う人こそ実は、まさに想像力が、欠けているのです。

 あるとき、私はふと、もし自分がその怒ってばかりの人だったら、と、イメージしてみました。すると、他人がちょっとミスをしただけとか、言うことに従ってくれないというだけで腹が立ち、気分が悪くなってばかりなのですから、いつも辛い気分を味わってストレスだらけだと、想像されました。

 ええ、自分ならば怒らないでしょう。けれどもリアルに想像するには、自分ならば、ではなく、その人の性格ならばどのように反応せざるを得ないかを、イメージしてみるのです。とにかく、制御不能に怒りが湧き続けるのをイメージしていると、「ああ、あまりにも大変だ、しんどいなぁ」と、ふつふつと同情心が湧いてきたのでありました。

 ついでに申すと、もしもこんなにも怒りに夢中になってばかりの心身を使って、これから精神を練磨する修行をはじめても、いったいいつになったら完成するのやらまったく先が見えないだろう。何という悲惨な、苦しい境涯なのだろうか。そんな具合に、修行によって得られる幸福感から、あまりにも遠いところにいる状況として想像される、その人の人生を、途方もないものとして感じたのです。

 そこからは、心底からの同情心が湧いてきたのでありまして、怒っているその人に対して、不快にならずに済むのです。

 つまり、その怒ってばかりの人の中に入りこむように想像してみれば、その人が「そうせざるを得ず動かされている」ということが分かり、非難したい気持ちはなくなるものなのです。

 では、そもそもその人は、なぜ腹が立つのか。まずは、「これこれの刺激が入力されたら導火線に火がつく」、というプログラムがパターン化して確立されていることが原因です。そして、具体的に、そのプログラムに合致する刺激に心が接触することが条件となります。原因と条件が縁(よ)り合わさると、必然的に、確実に、結果が生じるのです。原因と条件が縁り合って起きているだけで、「私がしている」とか「その人がやっている」ということではないので、「縁起」というのです。

 そのことが分かってくれば、「これは『私』がしたいことではない」と体感されるため、プログラムが抜け落ちて、縁起のパターンが書き換わる可能性があります。ですが、怒りにとらわれている人は、それが縁起にすぎないことを知らずに「自分が怒っているのである」と勘違いしているせいで、いつまでも変われないのです。

 たまたま優しさや努力といったものが有力な縁起のパターンで生まれてきた人は、放っておいても、比較的好ましい原因が心の中に蓄積され、触れる出来事に対しても、好もしい感情(という結果)が縁起しやすいことでしょう。けれども、それにしたって、「その人の人格」なるものがあってその人が優しいわけではありません。ただ単にシナリオに沿って好もしい自動反応が続いている、ロボットみたいなものであることは、怒りっぽい人と変わりありません。優しいと言われる人も、否応なく好もしいことをしているだけなのです。

 ですから究極、「嫌な奴だから嫌い」とか「好もしい人だから好き」というのは、そうした縁起の真理を見損ねるというところから生じる錯覚なのだとも、申せましょう。



■小池 龍之介
1978年生まれ。山口県出身。東京大学教養学部卒業。 月読寺(神奈川県鎌倉市)住職、正現寺(山口県山口市)住職、ウェブサイト「家出空間」主宰。僧名は龍照。住職としての仕事と自身の修行のかたわら、一般向け坐禅指導も行う。 著書に『しない生活』(幻冬舎新書)、『沈黙入門』『もう、怒らない』(ともに幻冬舎文庫)、『考えない練習』『苦しまない練習』(ともに小学館文庫)、『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『平常心のレッスン』(朝日新書)、『“ありのまま" の自分に気づく』(角川SSC新書)などがある。

最終更新:9月18日(日)6時0分

幻冬舎plus

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