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偶然が予想外の価値を生む、「セレンディピティレガシー」の魅力

Forbes JAPAN 9月18日(日)16時0分配信

レガシーは完成した時点で終わりではない。そのレガシーの影響で違うことが生まれたり、誰かがアイデアを乗っけることで、まったく予想もしなかった新しい価値が誕生していることがある。



それこそが本当のレガシーなのでは!?

4年に1回のスポーツの祭典に織り込まなくてはならないもの。はたまた退任前の大統領が残したがったりするもの。「レガシー」。最近よく聞くこの言葉、あなたは好きですか?私は正直微妙なところです。

後世に意味のあることを残そう、というのはもちろん良いのだけれど、考えたのが誰でどんな意図かが問題なわけで。「誰かの意図」で「僕らの意図」ではない。そこが違和感の元だとわかっています。とはいえ全員の意図は汲み取れない。なにか、いい方法がないか……? 21世紀のブラブラ社員である僕は、国内外いろんな所に足を運びますが、昨年とある場所に行ったときに、いいコンセプトを閃きました。いろんな人が参加して、後付けで、良いレガシーをつくる方法です。

ある日、わがチームのスーパーリサーチャー・牛久保暖が、カナダにアウトドア関連スタートアップが集結する小さな町がある、という情報を持ってきました。その町の名は、スコーミッシュ。人口は2万人。面白そうな変化は行って確かめなくてはいけません。

バンクーバーからクルマで北へ75キロ、ハイウェイで湾の奥地を目指し走ること1時間。巨大な岩山が見えてきたら、そこがアウトドアの聖地スコーミッシュです。中心部にはおしゃれカフェがあるものの、同行した後輩曰く「一歩間違えば廃れる町ですよね」。確かに……。

不安になりつつ、まずは7meshという会社へ飛び込み訪問。マーケティングディレクターのBrianが快く迎えてくれました(実は彼、アウトドアブランドArc’teryxの創業者の1人)。「私たちは自転車のウェアに特化したブランドで社員は7人。ここでプロトタイプをつくり、裏山で即テスト。またフィードバックし、完成形をつくり、中国に発注、生産、世界中に発送しています」とのこと。話の途中で本当に、社員が山からマウンテンバイクで帰ってきました。

印象に残ったのは「Mother natureのおかげ。Mother natureを活かしているだけだ」という発言。そう、ここはクライミング、バイク、釣り、トレッキングなどなどアウトドアスポーツが何でもできてしまう環境なのです。

また、アウトドアスタートアップ集結情報は確かで、ここの隣はパタゴニア、その隣もウェアの会社、その隣はギアの会社。それらは「Rec-tech」(Recはレクリエーション)と呼ばれているそう。誰か紹介してと頼むと「じゃあ、市長を」とすぐメールしてくれました。
--{高速道路をつくったから・・・}--
早速、翌日パトリシア市長と面談。「Rec-techのムーブメントについては、歴史から話さなくては」と、語り始めた彼女の話を要約すると、昔は林業で栄えたが衰退。ところが、この地には自然と人が集まるようになっていった。

まず、1960年代に、ロッククライマーたちが来るようになり、ウィンドサーファー、マウンテンバイカーが続き、レクリエーションカルチャーが徐々に築かれた。次に、20年ほど前から、Rec-techが登場し始めた。その後、バンクーバー・オリンピックでバンクーバーとウィスラー(ボブスレー会場)間に4車線の高速道路が完成し、会場2都市の地価が高騰。

スコーミッシュは地価が安いし、高速で都会まですぐだし、ネットも出てきたし、「移住して起業」という人が増加。7meshなど目立つ企業も移ってきて「クリティカルマス(閾値)」を超えた。今は、アウトドア関連を支援するデジタルや映像制作会社、再生可能エネルギーのラボなどもできて、企業の生態系ができた、とのこと。

本題に戻ると、この町にRec-tech集結のムーブメントを起こしたのは高速道路、つまり、オリンピックのレガシーがトリガーだったということです。これは面白い。風が吹けば桶屋が儲かる。

誰かが決めた何かが、別用途に使われて、新しいことを生んでいる。そうした例が他にもあります。

たとえば、サテライトオフィスで有名な徳島県神山町も、県がなぜだか引いていた高速ブロードバンドが、IT起業の移住環境を整えることにつながりました。また、高知県では、医者を信じないために風邪をひいたら病院に2つ行く習慣があり、「病院が過剰」「医療費の無駄遣い」と批判されていました。しかし、超高齢社会になると、その病床数の余裕が、逆に移住のメリットとなっているとのこと。

最近僕が体験した例でいくと、東京の水辺ツアー。広い隅田川を出発し、江戸情緒溢れる小さな水路を堪能していたかと思うと、首都高が出現、メトロポリスを船の上から見上げて日本橋でゴール。このダイナミックな変化は、ベネチアにもアムステルダムにもありません。この面白い景観を生んだのは前回のオリンピックのレガシー、首都高です(日本橋の上の首都高を外すことにはもちろん賛成ですが)。

誰かが決めてつくったレガシーを、偶然やみんなのアイデアで、したたかに、柔軟に、違う価値を付けていく。それをたまたま生まれたレガシー「セレンディピティーレガシー」と名付けてみました。

次のオリンピックなどで、仮になにか不満が残るものが決まったとしても、後付けで、より面白く意義あるものに、みんなで変えていけたら。それはもう誰かが決めたものでない。みんなに愛される後世に残るものになると思うのです。いまから何かみんなで考え始めちゃいますか。

電通総研Bチーム◎電通内でひっそりと活動を始めていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー40人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。現在50のプロジェクトを支援している。平均年齢約35歳。

倉成英俊◎電通総研Bチームリーダー。自称21世紀のブラブラ社員。気の合う人々と新しい何かを生むことをミッションに、公/私/大/小/官/民 関係なく活動中。特に各社の新規事業部のアイデア開発を支援しながら、今年は故郷の有田焼400周年を大応援中。

電通総研 Bチーム

最終更新:9月18日(日)16時0分

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