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なぜ、親玉ワルほど人の話を最後まで聞くのか?

プレジデント 9月18日(日)6時15分配信

■ワルの親玉ほど「言葉」に細心の注意を払う

 今年6月に実際に起きた事件。財布を落とした女性がJR小倉駅に取りに行った時のことだ。

 30代の男性職員が財布を返却してくる際、「お金が抜き取られています」と言った。財布には6万円が残っている。

 「なぜ、お金が抜き取られているのが職員にわかるのか? 」

 不審に思った落とし主の女性が警察に通報し、男性職員は8万円を盗んだ業務上横領の疑いで福岡県警に逮捕されたという内容だった。「お金が抜き取られている」などという不用意な一言で、窃盗行為がばれてしまったわけだ。

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 このような間抜けケースは詐欺においても起こる。通常は話や手口が巧みでまったく尻尾を出さないワルなのに、突然、犯罪行為を露呈してしまうことがあるのだ。

 私はこれまで数々の悪質商法の現場に潜入してきたが、勧誘元には、卓越した話術のベテラン勧誘員だけではなく、経験の浅い稚拙な勧誘員もいる。

 稚拙な勧誘員が出てくるとたいてい支離滅裂な話になるので、かえって悪質業者の巧みな手口が読み取れないことも多い。それゆえ、リスキーだが、時にわざとその人物をやり込めて自分には手に負えない人物と思わせて、ワルの親玉ともいうべきベテラン勧誘員を引きずり出すこともある。

■上手に相手の「言葉の尻」をとって話を転がす

 さて、両者の違いはどこにあるのか。

 結論からいえば、相手の言葉の尻をとる思考ができるかどうかだ。以前、絵画の即時販売会に潜入したことがある。最初に対応したのは、若い女性勧誘員だった。彼女は「お仕事は何ですか? 」と尋ねてきた。

 さすがに、「潜入ライターです」とはいえないので、「大手企業の営業職」などとあいまいにして答えた。すると次に、「趣味は何ですか? 」と聞くので、「テニスです」と答えた。さらに、「ご自宅にお住まいですか? 」と質問をするので、「いいえ、アパートに一人暮らしです」などという話をした。

 そんな会話をしながら、画廊を見回ると、女性は「どの絵が気に入りましたか? 」と尋ねてきた。私がある1枚のリトグラフを指差すと、その前に椅子が置かれて、商談態勢に入ることになった。

 しかし、この女性はあまり話術にたけておらず、「この絵を選ぶなんて、お目が高い」といういささか手垢のついた言葉ばかりを連呼する。そして言葉に詰まると、沈黙する。

 この繰り返しに、私はしだいに眠くなってきた。とにかく、すべての話がブチブチと、切れていて、発展しないのだ。本来なら、私の職業が「営業職」ということであれば、「どんな営業なのか? 」「会社の場所はどこ? 」「社内での人間関係はどうですか? 」など、いろいろ聞けるはずなのだが、彼女はそれをしなかった。

 そのうちに、ベテランと思しき女性がやってきた。

 まず「この絵のどこか良かったのですか? 」と聞いてきたので、相手の力量を図るため、わざと絵の本体ではなく「背景部分がいいですね」と意地悪な答えをしてみた。けれど、女性はひるむこともなく、私の返答を受けて、会話をつなげる。

 「なるほど、背景のクリーム色の感じが好きなのですね。ということは、性格は穏やかな方ではないですか」

 私がひとり暮らしだと知ると、「もし、この絵を飾るならどこがいいですかね? 」と言いながら、詳細な部屋の間取りを確認して、「右の壁には何が張ってありますか? 」と尋ねてくる。そこにカレンダーなどが張ってあることを伝えると、その反対側には、何があるかを聞いてくる。そして、左の壁に何もないことを知ると、「ここには、この絵を飾れそうですね」と話をつなげていく。

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最終更新:9月18日(日)6時15分

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