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戦後・昭和の世相を「歌謡曲」からふりかえる 中島丈博の読書日記

現代ビジネス 9月18日(日)11時1分配信

もう一つの昭和史

 ドラマの時代設定を視聴者に伝える工夫はいろいろあるけれど、屡々(しばしば)用いられるのはその時代の流行歌をバックに流すという方法である。安易だが手っ取り早いので、私などもよくその手を使ったものだ。

 半藤一利著『B面昭和史』にも当時のヒット曲や軍歌が再三登場するので、私たちの世代にとってはただ、懐かしい。また、これらの戦意高揚歌の替え歌までもが記されているのは、さすがB面の面目躍如たるものがあるが、関東と関西では多少の差違があったようである。

 例えば「愛国行進曲」の場合――

 みよ東条の禿頭/旭日高く輝けば/天地にぴかりと反射する/蠅が止まればつるとすべる……

 と元歌の要素をかなりなぞっているけれど、私たちが子供の頃、京都で歌っていた替え歌は次の通り。

 みよ東条の禿頭/よくよく見れば毛が三本/頭の上で運動会/つるりと滑って一等賞……

 ほかに「湖畔の宿」の替え歌も東西では少しばかり違っていたようだが、それはさて措くとして、この六百ページになんなんとする『B面昭和史』は、B面だけでは始末が付かずにA面が顔を出すと、途端にA面、即ち正史の部分のいやらしさ、いかがわしさが否応もなく際立って、B面の時局に追随迎合する民衆の愚かしさや滑稽と相俟っての二重奏を盛り上げることになる。

 しかし、年代を経るに従って昭和19年、20年の第8話『鬼畜米英と神がかり』ともなると、BもAもなく両面が破滅的地獄の様相を呈して、わずかに少年時代の作者に対して「坊」と語りかけるおやじさんとの会話に救われる。

 戦争に負けると、男は全員が南の島で一生奴隷に、女はアメ公の妾になるのだと流布されていた。玉音放送の後、作者が父親に真偽のほどを確かめると、「バカもん」と一喝される。

 「なにをアホなことを考えているのだ。日本の男を全員南の島に運んでいくのに、いったいどれだけの船がいると思っているのかッ。日本中の女性を全員アメリカ人の妾にしたら、アメリカの女たちはどうするんだ、黙っていると思うか。馬鹿野郎」

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最終更新:9月18日(日)11時1分

現代ビジネス

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