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『君の名は。』『シン・ゴジラ』ヒットに沸く東宝。それでも売上への影響は数%?

HARBOR BUSINESS Online 9/18(日) 9:10配信

 東宝配給の映画作品の勢いがすごい。今年8月はどこを見渡しても『シン・ゴジラ』の話題で溢れ、公開わずか1か月で観客動員数は360万人を超え、興行成績も53億円を突破という大ヒットとなった。

⇒【資料】東宝第127期 有価証券報告書

◆「(ゴジラ)成功に向けて全社をあげて取り組みます」

 通常の製作委員会方式を採らず、単独出資で本作を手がけた東宝は、株主に対し、経営成績・課題・目標を開示・表明する有価証券報告書においても名指しで「(ゴジラ)成功に向けて全社をあげて取り組みます」と記している。事実、その言葉通りの成功を収めた。

 さらに、その東宝は『シン・ゴジラ』公開から1か月も経たないうちに、新海誠監督の最新作アニメ『君の名は。』の全国ロードショーを開始。こちらも公開8日で動員212万人、興行収入27億円を突破するなど、大ヒットとなっている。

 だが、これで東宝の売上も利益もうなぎのぼりかと思いきや、案外そうでもないようだ。

 松竹や東映をしのぎ映画業界最大手の東宝の’15年期の年間売上高は約2300億円、営業利益は407億円だ。

 前述したような『シン・ゴジラ』『君の名は。』といった大ヒット作が生まれても、せいぜい興行成績は100億円程度であり、年間売上高に比して、5%弱を占めるにすぎない。

 ヒット作を生み出すと、地上波で繰り返し再放送されるようになるが、この収入も実はさほど大きくない。全作品を含めた昨年度のテレビ放映収入はたったの17.6億円だ。

◆高い収益率を誇る東宝の不動産事業

 そもそも東宝の年間売上高の内訳を見てみると、映画事業全体で1513.6億円、演劇事業で107億円、不動産事業で621億円、ダンスホール経営などのその他事業で9.7億円となっている(余談だが筆者はかつて大学の部活で競技ダンスをしており、東宝ダンスホールにはよく通っていた。鶯谷のホテル街にあり一見妖しい雰囲気を放っているが、館内は平日でもダンサーたちで賑わっている)

 なかでも不動産事業は高い収益性を誇り、営業利益は178.9億円と、全体の4割近くを占めている。3900億円もの東宝の総資産のうち土地や建物などの固定資産が1500億円以上もあり最大の資産となっている。これが毎年莫大なキャッシュを生み続けているのだ。

 ちなみに銀行借入は3億円弱しかなく、実質的に無借金経営と言える。保有する不動産で手堅くしっかり稼ぐ構造はテレビ放送におけるキー局、新聞社や大手出版社と同じだ。

◆実は映画ビジネスは博打的要素が少ない

 続いて、本業の映画事業を詳しく見ていこう。主に稼ぐ手段は製作した映画の配給と、TOHOシネマズを中心とした映画館での興行、DVDの販売の3つだ。配給を中心とした映画営業事業の収入は492億円、映画興行事業は735億円、物販を行う映像事業で286億円となっている。

 映画を作って配給するだけの方がコストは抑えられて利益率は高いが、自前で映画館を運営して来場者からお金を集める映画興行が一番売上が立つ。当たり前だが、映画がヒットして来場者が増えれば増えるほど儲かる仕組みである。

 ここで他のコンテンツビジネスと比較して映画ビジネスの特徴を考えたい。他のコンテンツと比べて、映画は

1.一番製作にお金と期間がかかる

2.当たり外れが少ない

 という特徴がある。1.に関しては直感的に理解できるが、2.に関しては本当か?と思うかもしれない。

 もちろん、映画にも「異例の大ヒット」もあれば「異例の大ゴケ」だって存在する。だが、その幅に注目したい。『シン・ゴジラ』は製作費だけで10億円ほどかけたそうだが、こうした作品はいくらこけても1桁億円の収入は見込めるだろう。一方ヒットした場合も100億円程度だから上下の幅がせいぜい数十倍だ。

 これが他のコンテンツビジネスのゲーム、本・マンガ、音楽ならどうだろう。初版数万部のマンガが大ヒットしてシリーズ累計数千万部を超えることもよくあるし、一本のゲームが会社の利益をその後数年にわたって支えることもある。

 一昨年は18期連続で減益していた講談社が『進撃の巨人』一作のおかげで増益に転じたし、任天堂が「ポケモンGO」のヒット1つで時価総額を2兆円ほど増やしたのは、記憶に新しい。どん底の状態にあったミクシィが『モンスト』のヒットで大増益、ここ数年間会社全体で好調という例もある。

 一方で映画というコンテンツは、映画館という流通チャネルに限りがあり、上映期間もせいぜい数か月と限定的なため、そのような「逆転満塁ホームラン」が生じにくい。ゆえに、一発二発当てれば継続的に会社を支えられる収入がうみだせるわけではないので、一定以上にヒットするものをコンスタントに作り、世に出し続けなければならない。

 東宝は’15年通期は40本の製作・配給を行い、’16年は第1四半期だけですでに13本手がけている。1タイトルごとにしっかり数十億円ずつ稼ぐことで、トータルで1500億円以上の映画事業の売上が成り立つのである。東宝の今後の作品にも期待したい。

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok

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最終更新:9/18(日) 17:42

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