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宇多田ヒカル、活動再開後初のTV出演へ 表現者としての成熟をどう見せるか?

リアルサウンド 9月19日(月)17時1分配信

 9月28日にリリースされる、宇多田ヒカルの約8年半ぶりとなるニューアルバム『Fantome』が2016年最大と言っても過言ではない注目を集めている。9月16日にはアルバムに椎名林檎(「二時間だけのバカンス」)、小袋成彬(「ともだち with 小袋成彬」)、KOHH(「忘却 featuring KOHH」)が参加していることを発表。GYAO!で「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」のミュージックビデオが公開され、“宇多田、椎名がMV初共演”というニュースが一気に拡散した。また本日9月19日には『MUSIC STATION ウルトラFES 2016』(テレビ朝日系)に出演。活動再開後のテレビ初出演、Mステへの出演は8年ぶりとなり、こちらも要注目だ。

 1998年12月にシングル『Automatic/time will tell』でデビューした宇多田ヒカル。海外のR&Bとリアルタイムでリンクしたサウンドメイク、ブラックミュージック的なメロディと日本語の歌詞をきわめてナチュラルに融合させたリリックは当時のシーンに衝撃を与え、彼女の名前は瞬く間に日本中に知れ渡った。さらに翌年3月にリリースされた1stアルバム『First Love』が800万枚を超えるヒットを記録。日本の音楽シーンにR&Bの一大ムーブメントを巻き起こしたことはもちろん、彼女の存在自体が社会現象となった。

 その後リリースされたアルバム(2ndアルバム『Distance』/2001年、3rdアルバム『DEEP RIVER』/2002年、4thアルバム『ULTRA BLUE』/2006年、5thアルバム『HEART STATION」/2008年)もすべてチャート1位を記録。順調にキャリアを重ねてきた彼女は2010年8月に自身のブログで音楽活動を休止することを発表。「しばらくの間は派手な『アーティスト活動』を止めて、『人間活動』に専念しようと思います」というコメントともに表舞台から姿を消した。彼女のコメントからは「アーティスト活動のために得ることができなかった、人間らしい生活を取り戻したい」という意思が強く伝わってきたが、周知の通り、活動休止中の彼女には様々な出来事が起きる。母である藤圭子の死(2013年8月)、そして、イタリア人男性との結婚(2014年)と第一子の出産の発表(2015年)。“肉親との離別”“母親になる”という人生における重大な出来事を数年のうちに経験したことは、彼女の人生観、価値観に大きな影響を与えたはず。それはもちろん、宇多田ヒカルの音楽にも計り知れないほどの変化を生み出すことになった。
 
 2012年にDVDシングル『桜流し』(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』テーマソング)を発表した宇多田は、2016年4月に配信シングル『花束を君に』(NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』主題歌)「真夏の通り雨」(日本テレビ系『NEWS ZERO』テーマ曲)のリリースから本格的に音楽活動を再開。この2曲は、彼女の音楽な深化を明確に告げていた。サム・スミスの楽曲を手がけたスティーブン・フィッツモーリスのエンジニアリングによるトラックの質の高さにも驚かされたが、もっとも印象的だったのは、日本語の美しさを存分に感じさせるリリック、そして、日本的な情緒を感じさせる和声とメロディだった。以前から中上健次、遠藤周作などの日本人作家に造詣が深いことでも知られ、和風のメロディもふんだんに取り入れてきた彼女だが、イギリスに生活の拠点に置き、物理的に日本から距離を置くことによって“日本の言葉と旋律の豊かさ”がより深く内面化し、楽曲に現れたのだろう。

 音楽的な変化と重なるように、その歌声も明らかに変わっていた。生まれついてのブルーズを感じさせ、声を発するだけで切なさ、哀しさが伝わるところはまったく同じなのだが、以前のシャープな手触りは抑えられ、優しさ、包容力といった要素が前面に押し出されているのだ。個の変化において、33歳という年齢、そして、活動休止中の経験が作用していることは明らかだ。

 きわめて質の高い世界基準のトラックメイク、日本語の美しさを活かしたリリック、和のテイストを感じさせるコードワークとメロディライン。「桜流し」「花束を君に」「真夏の通り雨」に示されていた音楽的な兆候は、ニューアルバム『Fantome』にもそのまま受け継がれている。そして、アルバム全体を通奏低音のように流れているのは、“気配”を意味するタイトルが示す通り、“目には見えないけれど、確かに感じられる大切なもの”である。人と人の間に流れる感情の波、ここにはいない誰かを思う気持ち、人間の根源的な孤独、過去の様々な経験を受け入ることで生まれる「見えない傷が私の魂彩る」(「道」)という心境。前述した通り、このアルバムの背景には、ここ数年に起こった彼女自身の出来事が色濃く反映されている。しかし『Fantome』から伝わってくる豊かで切実な“気配”は、たとえ彼女のバックグラウンドを知らなかったとしても、確実に聴く者の心を惹きつけるはずだ。

 「人間活動」のなかで得た成熟、音楽表現の深化によって生まれた『Fantome』。常にライブが想定され“みんなで一緒に楽しむ”という刹那的なポップソングが大部分を占める現在のシーンにおいて、1対1の関係性のなかで、じっくりと集中して耳を傾けざるを得ない『Fantome』の楽曲がどのような形で受け入れられるのかは、正直言ってまったくわからない。しかし、このアルバムが音楽的、精神的に優れていることは間違いなく、本作によって宇多田ヒカルは、その才能が破格であることを改めて示すことになるはずだ。アルバムのリリースに伴い、いくつかのテレビ番組にも出演。まずは2016年の彼女の歌声をじっくりと感じ取ってほしいと思う。

※アルバムタイトル内「o」はサーカムフレックスつきが正式表記。

森朋之

最終更新:9月19日(月)17時1分

リアルサウンド

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