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本年度、講談社ノンフィクション賞決定発表!『つかこうへい正伝 1968-1982』 受賞のことばと選評

現代ビジネス 9月19日(月)14時1分配信

受賞作品
『つかこうへい正伝 1968-1982』(新潮社刊)
長谷川康夫
 今回の受賞作は、ルポルタージュ、伝記、体験記などのノンフィクション作品で、単行本、新聞、雑誌などに、'15年4月1日より'16年3月末日までに発表されたものから選ばれました。選考委員は、後藤正治、高村薫、立花隆、中沢新一、野村進の5氏です。

 候補作品は受賞作品の他、井戸まさえ『無戸籍の日本人』(集英社)、井上卓弥『満洲難民 三八度線に阻まれた命』(幻冬舎)、小熊英二『生きて帰ってきた男―ある日本兵の戦争と戦後』(岩波書店)、牧村康正・山田哲久『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』(講談社)の4作でした。

受賞のことば 長谷川康夫

 恥ずかしい話なのですが、出版されて8ヵ月を過ぎたというのに、いまだに拙著を繰り返し手に取り、まるで一読者のようにそれを読んでしまう自分がいます。

 例えば脚本を担当した映画であれば、撮影、編集と付き合って、試写で完成を見届けてしまえば、劇場公開にはまず足を運ぶことがないし、その後DVDが発売されても、決して封を切ることなどないのに、これはいったい何なのか。

 ここに来て、ようやく腑に落ちたのです。つまり、すっかり忘れていた自分の古い日記を見つけたなら、誰だって何度も読んでしまうだろうと。

 そもそも本書は、かつての劇団の仲間たちに託され、書くはめになったものです。彼らと共につかこうへいと過ごした時間、そして関わった芝居の〝記憶〟を〝記録〟として残す作業を、たまたま僕が請け負ったに過ぎません。つかさんが亡くなり、皆があの日々をきちんと振り返らずに来てしまったことに気づいた頃です。

 身の程知らずの安請け合いをすぐに後悔したものの、その作業は結果、僕にとってとても意味のあることでした。

 僕は病床のつかさんと会っていないし、葬儀や偲ぶ会なども一切なかったので、その死をどこか実感できずにいたところがありました。とくに原稿に向かっていたほぼ4年間は、当時の記憶を呼び起こすのに懸命で、かつてのわくわくした時間が蘇り、つかさんが亡くなったことなどすっかり頭から消え、いつでもまた会えるような気さえしました。

 それが完成した本を手に取り、そのページをめくるうちに、ようやく思い知るのです。そうか、つかさんはもういないんだ……と。

 たぶん日記というのはそんなものなのでしょう。失くしてしまったことをずっと後になって確認する。だから何度も読んでしまう。

 でも果たしてそれが、他人にとって読みものとしての価値があるのか。正直なところ、分不相応な賞をいただいたという思いはずっと消えません。

 けれど僕も仲間たちも、どこかにしまい込んでいた日記帳を再び目にすることができたのは間違いなく、たぶん賞に値したのは、僕らとつかこうへいが過ごした時間だと、気恥ずかしくも自分たちに言い聞かせ、今回の受賞を皆で喜びたいと思います。

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はせがわ やすお/'53年、北海道札幌市生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。劇団「つかこうへい事務所」に入団してからは、『いつも心に太陽を』『蒲田行進曲』など一連のつか作品に出演。劇団解散後は劇作家、演出家として活動。'92年からは映画脚本を手掛け、『亡国のイージス』で日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞。近年の作品に『起終点駅 ターミナル』などがある。
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 選 評

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最終更新:9月19日(月)14時1分

現代ビジネス

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