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“奇跡”続くNY爆発事件 容疑者スピード拘束で残る“謎”

Japan In-depth 9月20日(火)12時4分配信

それは偶然か?奇跡か?とでも言えるような事件だった。

先週土曜日、ニューヨーク、マンハッタンで起きた爆発事件。爆発現場近くに住む知人は、現場前を通り、自宅に戻った瞬間に爆発音を聞いた。一晩中漂う火薬のような匂いに、いつまた付近で爆発が起こるかという不安でなかなか寝付けなかったという。

多くのニューヨーカーたちを震撼させたこの事件。しかし、土曜の夜、もっとも賑わう繁華街に仕掛けられた爆発物だったにも関わらず、幸いにも死者は出ず、すぐに2つ目の爆発装置も爆発前に処理班によって発見され、処理された。パトロール中の警察官自身が爆発を目撃、すぐに駆けつけたという報道に、“ニューヨークは守られている”という安心感を抱いたという人も多かった。しかし警察のお手柄はそれだけはなかった。

■防犯カメラと指紋で迅速に容疑者特定 

翌日には、警察は容疑者が特定していたのだ。ニューヨークタイムズ紙によると、捜査当局は、現場付近の防犯カメラ映像からラハミ容疑者が2つの爆発物(圧力鍋を使った簡易爆発装置)を仕掛けたと特定。また、2つ目の装置からはラハミ容疑者の指紋も見つかったという。

一方、ニュージャージー州にあるラハミ容疑者の自宅付近にある駅では、簡易爆発物5つの入ったリュックサックを通行人が発見。こちらも無事、爆発前に処理班が処理している。警察は容疑者の自宅を捜索するも容疑者は見つからず、月曜朝、当局は指名手配犯として容疑者の顔写真を公開した。

しかし、ここでも奇跡が起きる。隣り町にある飲食店の入り口で、ホームレスが寝ていると通行人から通報が入ったのだ。駆けつけた警察官が寝ている男を起こそうとする。どうも指名手配中の容疑者に似ているようだ…と思った瞬間、男はいきなり銃を取り出し、警察官の腹部を撃つ。しかし警察官は防弾チョッキを着用しており、けがを免れる。男は逃走を試みたものの、警察との銃撃戦の末、拘束された。男は警察官の直感通り、ニューヨーク爆破事件を起こしたアフマド・ラハミ容疑者だった。

■生きて拘束された28歳アフガニスタン出身容疑者

担架に乗せられ救急車内に担ぎ込まれる男の姿は、米ABCテレビが独占映像で報道した。アフガニスタン出身のアメリカ市民アフマド・ラハミ容疑者28歳。 濃いヒゲを蓄えた男は、警察との銃撃戦の際、肩を撃たれたと見られ、血も流れている。少しだけ不安そうな、しかし穏やかな表情、大きなケガをしているようには見えない。

アメリカの警察と言えば、相手が危険な人物と判断すれば、銃を連射するのが基本である。相手が銃を持っていなくても、警察官が恐怖を感じれば、至近距離で銃を乱射して相手を殺害しても、ほとんどの場合、事件にならないか、裁判で勝訴している。

そんな中、ホームレスかと思って近づいた相手が、いきなり銃を乱射して来ても恐怖にかられることなく冷静に対応した警察官に対し「よくぞ生きたまま拘束した!」とネットでは警察をたたえる声が相次いだ。これで容疑者がつながっている国際テロ組織の情報が入手できる!というわけだ。しかし、今のところ、国際テロ組織とつながりがあったという報道はない。そんな中、報道されているのが、容疑者が父親と経営していたフライドチキン店が抱えていた 近隣住民とトラブルである。

■人気フライドチキン店の近隣トラブル

ニュージャージー州エリザベス市。同州では4番目に大きい都市で、南米やアラブ系の移民が多いことでも知られる場所だ。容疑者一家がいつ渡米したかは定かではないが、容疑者の父親は2002年、この地に「ファースト・アメリカン・フライドチキン」という名の飲食店をオープンしている。24時間オープンの店は、若者たちから人気を集める。しかし、夜な夜な店の前に若者がたむろっていると近隣住民からは市役所に対し苦情が相次いだという。これに対し市側は、深夜の営業を禁止するよう通達。ニューヨークタイムズ紙によると、父親は2011年、この市からの通達を巡り、イスラム教徒に対する差別だとして市長や議会を訴えている。最終的には深夜1時までの営業ということで、訴訟は収束を見たようである。

しかし、店を巡り警察とトラブルを抱えていた兄は、逮捕を恐れて出国、アフガニスタンに逃げたと見られている。また容疑者自身も4年前にアフガニスタンに旅行して戻ってきてからはより熱心なイスラム教信者になり、人が変わったようだったいう友人の話も報じられている。また容疑者は2014年に、ナイフで知人の足を斬りつけたとして逮捕され3ヶ月間拘置所に入ったのち、不起訴となっている。

イスラム教徒である容疑者が、近隣住民や警察から受けた不当な差別を受け、少しずつ過激化していった…という、あまりにもステレオタイプな動機しか今のところ報道されていない。父に代わり最近では店を切り盛りしていたという容疑者は数ヶ月前には、店を売りに出すという広告も出していたようである。事件を想定し、事前に準備をしていたのか。

しかしなんとも腑に落ちないのは、事件の中途半端さと、場所の選択である。ニューヨークと ニュージャージーで起きた2つの爆発事件、そして同州にある容疑者の自宅付近の駅に置かれた爆発装置…

なぜこれらの場所を選んだのか?一見、計画性も一貫性もない状況にネット世界では様々な憶測が流される。

「ニューヨークの爆発事件のおかげで、同じ日にアメリカがシリアで起こした誤爆事件の報道を掻き消すことができた…」という、アメリカ政府の陰謀めいたものや、「テロ組織が警察の動きを見るために手下を使った予行練習だ…」というものまで様々ある。あくまで推測の域を出ない内容ではあるが、それだけ、人々がこの事件を理解できないということの現れであろう。

ただ実際に、この事件は警察の捜査にとって価値あるケーススタディにはなるはずだ。また今回はこういった事件の捜査としては初めて、ニューヨーク市民の携帯電話に警報が送られている。市民は月曜の朝8時頃に、「指名手配中 アフマド・ラハミ28歳 写真はメディアで」というメッセージを受け取っている。このメッセージが実際の捜査にどう役立ったのかは不明だが、ネットメディアのVICEは「肝心な容疑者の詳細が欠けた警報だ」と題し、名前と年齢だけで、風貌の説明や写真も掲載されていなければ役に立たないと酷評している。

実際にはCNNでは容疑者の写真は出ていたのだが、見ていない人も多いだろう。そんな不手際があったとしても、容疑者は見事拘束されている。偶然が重なりあった奇跡の逮捕なのか?それとも この国の警察が優秀であることが証明されただけなのか?今後、容疑者が何を話すか、またその情報がどれだけ開示されるか注目である。

井上麻衣子(ジャーナリスト/ビデオグラファー/ストリート・フォトグラファー)

最終更新:9月20日(火)13時6分

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