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新商品は「古(いにしえ)」にあり 「うまいもの」が奈良で復活

Wedge 9月20日(火)12時40分配信

 「奈良にうまいものなし」と言われる。だが、そんなことはないと立ち上がった奈良・春日大社の元権宮司。歴史に刻まれた「うまいもの」の復活が地域の新たな活力となる。

 「志賀直哉は『奈良にうまいものなし』とのたもうたけど、どうしてどうして、いろいろありますのや」

 古都・奈良の春日大社で権宮司を務めた岡本彰夫さんは、長年、古(いにしえ)の文物の復興に力を注いできた。神官として仕えた春日大社でも、神社に残る古文書類などを調べあげ、儀式を古来の姿に戻す努力を昨年退職するまで続けた。そんな大和・奈良の伝統を重んじる岡本さんが熱心に取り組んでいるのが、歴史に刻まれた「うまいもの」の復活なのだ。

 奈良県北中部・桜井市初瀬にある長谷寺は古来、霊験あらたかな観音霊場として貴人から庶民に至るまで多くの人の信仰を集めた。伊勢神宮へ続く伊勢街道沿いでもあり、門前町は多くの往来客で賑わった。その初瀬に近い黒崎村(現・桜井市黒崎)に「女夫饅頭(めおとまんじゅう)」という名物があったという。

 古書の収集家でもある岡本さんは、嘉永6年(1853年)に刊行された『西国三十三所名所図会』に、この女夫饅頭を商う店の繁盛ぶりを描いた図があるのを見つけ、どんなものなのか、興味を抱き続けていたという。 

 「調べてみると200年以上の歴史があって、あの本居宣長も食べたと『菅笠日記』に書いている。由緒正しい饅頭だということが分かったんです」と岡本さんは振り返る。享保21年(1736年)に幕府の命で編纂された『大和志』に黒崎名物として饅頭が載せられているのが現在確認できる最古の記録だという。

 そんなある日、桜井市で地域おこしに力を注ぐ堀井清孝さんと、この女夫饅頭を復活したらどうか、という話になった。堀井さんは印刷会社を経営するかたわら、「やまとびと」というコミュニティ誌を発行・配布していた。古の女夫饅頭が地域の新「名物」になるのではないか、というわけだ。

 岡本さんは奈良の旧市街に店を構える『樫舎(かしや)』の主人、喜多誠一郎さんに製作を依頼した。古文書にも正確な製法が残っているわけではない。何度かの試作を繰り返して、女夫饅頭は見事復活した。2012年のことだ。

 上が白の上用饅頭で、下が紅の酒饅頭、さらにその紅白の間に餡をはさむ。それを蒸籠で蒸すのだ。素朴な味わいの饅頭だが、手間暇がかかっている。「本物」にこだわったすべて手作りの逸品が出来上がった。

 堀井さんは長谷寺の参道に『やまとびとのこころ店』というカフェを兼ねたコンセプトショップをオープン。ここでお抹茶などと共に女夫饅頭を味わうことができるようにした。

 実は、樫舎の喜多さんが岡本さんの依頼を受けてお菓子を復活させたのは、女夫饅頭が初めてではなかった。

 奈良県天理市で、町おこしの団体「まほら座(天理山辺元気プロジェクト研究会)」を立ち上げた代表の伊藤良次さん。岡本さんとは気の合った友人で、古道具集めの同好の士でもある。伊藤さんに天理の町おこしに役立つ知恵を請われて思い至ったのが「こうごり」だった。30年ほど前に春日大社の氏子に天理から嫁いできたお年寄りの女性がおり、「こうごり」という菓子があるという話を聞いていたのだという。

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最終更新:9月20日(火)12時40分

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